エピローグ皐月リョウという男は

文字数 1,699文字

ブーとプロペラの回る音がする。
彼らは鉄の塊である空中船に乗ってクッキングという名の塔を目指していた。
料理と格闘をミックスしたバトルオブトーナメントを行い、最上階を目指してはその階ごとの師範を倒し、抗う挑戦者の上に立つのみである。
そんな解説を空中船の中央エリアで聞き入る挑戦者の中に皐月リョウがいた。
月のように丸い目にはどこか温かみがあり、凛とした鼻先に化粧を施したかのような白い肌。
それを隠さんばかりに赤黒い帽子を深く被っている。
そして、彼はとある事で目立っていた。
それは・・・
「サツキ君~何か作って~」
「イヤ、いっそのこと私を料理してー」
「ううん、私のためだけに振り向いて~」
「ニャーニャー」
「ニャー」
「ニャー・・・」
そう、彼はモテルのだ。
なぜか、女性と‘メスの子猫’に・・・
「まあまあ、今は司会者さんが話してるだろ?それに料理なら後で作るから」
するとまた、左右前後から彼女達と‘メスの子猫’達から「えー」と声が上がる。
「イヤー、サツキ君が初めて作ってくれたハンバーグじゃなきゃイヤ」
「何言ってんの。リョウ君と最初に会ったのは私でしょー」
「あ、今、サツキ君のこと下の名前で呼んだズルイ~」
「はあ、何でこうなるかな・・・男性陣は男性陣で睨んで来るし・・・」
分かりやすく頭を抱えるリョウにカカカと笑い声が響いた。
「カカ、相変わらず主はモテルのう」
「あっ、ジェリーさん」
このジェリーという女性はやけに中二病臭く話しかける。
「やはり、我の目に狂いは無かった。このおなごらのやらしさを束ね、師範に己をアピールするのだからな」
「いや、僕はみんなの事をそんな風に利用なんかしていませんし、第一、みんなは僕にとって大事な‘仲間’なんですから!」
とリョウが断言すると女性とメス達は失神の悲鳴(勘違い)を上げ、男性陣はさらに目つきを悪くした。
その対比に思わずキョトンとしたジェリーだが、
また、妙な話し方をした。
「まあよかろう。主にそのような頭が無い事は元から知っておったし、この神に認められし我の美貌にも屈しぬのだからな」
「ハハハ、そうですか」
実際の所、それは当たっていた。
年はリョウより一つ上の17で、リョウに負けないほど肌は白く、髪は炎のように長く、瞳はダイヤのように赤い。
顔立ちも文句の無い美少女。
それを示さんざかりに体は細く、黒く透けるマントと共にへそ丸出しの服と短いジーパン。
おまけにこの中二病がかったギャップも人々を引きつけ、男性陣の人だかりが多く、中には女性の姿もあるほどだ。 
そんなジェリーとリョウが話盛り上がっていると
小さな小さな声が発せられた。
「相変わらず、お二人は、仲がいいですね・・・」
「あっ、ソフィ!相変わらず元気だな!」
「あ、いえ、そんな・・・」
このソフィという子はリョウより二つ年下だが、やはり愛らしい。
リョウが元気というほどではないが、髪は地面に着きそうなくらい長く青い髪に、潰れてしまうじゃないかと思うくらいの小さな顔。
「抱きしめたくなる」という言葉は彼女のためにあるのではないか?と思う者もいるほどで、服装は白のワンピース。
そんな彼女が顔を隠してうじうじしているのをリョウが何気にジェリーに聞く。
「でもまあ、何でソフィは初めて会った時から僕にだけ顔を隠すんだろうね?」 
「主は本当に鈍感じゃのう。我とてソフィと同じ気持ちだと言うのに・・・」
「えっ?何だって?」
「何でもないわ」
ジェリーが溜息をしながらキョトンとしたリョウを見る。
それにソフィはあたふたと「違うんです!」とコールをし、男性陣は苛立ちを深くし、女性陣と子猫達も「ニャーニャー」しがみついてくる。
いつまで経っても進展しないやりとりに司会者が咳払いをしたのを気に、話が進められた。
「とにかく、上位の階を目指すまでに必ず、料理と格闘を交える事。そして、途中、師範に認められた者はその階の師範になり、挑戦者同士の争いはクッキングで決める事です」
そう司会者が言い終える頃にはすでに空中船はクッキングへと到達していた。
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