友人

文字数 1,132文字

彼とは、高校から帰る途中の駅で再開した。
「久しぶり」とわたし。
「久しぶり」
2年ぶりだったので、彼もわたしもあんまり変わっていなかったが、なにか違和感があった。彼は髪を長く伸ばし、仕草も女らしくなっていた。そこでわたしは、中学の頃、彼が女ばかりと遊んでいたのを思い出した。下心というよりは、純粋に気が合うようだった。わたしと彼は近くの席でたまにしゃべる程度の仲だった。
「女の子らしくなったね。」
「うん 性同一性障害だったんだ。」
「へえー 男が好きなのかい?自分のことを女だと感じてるの?」
高校生のわたしは、無神経だった。それでも大きく驚くほうが失礼だと思ったし、そのころのわたしは少々憂鬱な気分で自分のことばかり考えていた。
「うん、男が好き。」彼は少し言いにくそうに答えた。
「へえー。昔からかい?」
「そう、結構悩んだんだよ。」そういいながら自分の腕をまくり、リストカットの跡を見せた。
「大変だったんだな。なんて言っていいかわからないよ。」
「うん」
その後は、何をしゃべったかよく覚えてないが少し雑談をして別れた。わたしは彼のことを男として見ていたつもりだったが、なんだか不思議な気分になった。
 それからも、彼とは何度か駅で会った。他の友人も何人かいたが、みんな彼と話そうとしなかった。田舎では、人と少し違うだけで気味悪がられた。私も昔は気味の悪いガキだと周りの大人に思われていた。
「高校で好きな女の子とかいないの?」彼は上目遣いで聞いてきた。
わたしは冗談じゃないと思って軽く受け流そうとした。
「んー いないかな」、
「その反応はいるでしょ」
彼は頭もよかったし、感も鋭かった。
「いや いるけど相手にされないよ。」
「そうなんだ。」
「顔はいいほうだと思うんだけどね。」
「そうならいいんだけど。」
わたしの顔は、お世辞にもいいとは言えなかった。実際好きな女の子はいたが、遠くから眺めているのがやっとだったしその子には彼氏がいた。わたしを必要としてくれる人はいなかった。
「そっちはどうだい。」
「友達として仲良くはなれるけど、恋愛にはならない。」
「そっか。」
彼はわたしを気に入っているらしかった。わたしは悪い気はしなかったが、恋愛感情はなかった。昔は男同士として遊んでいたのだ。無理な話だ。
「いつも、土日は何をしてるの?」と彼。
「暇だね、映画をみるか本を読んでるか。」
「暇なら家に来なよ。」
「うん。また暇なとき連絡するよ。」
そうして別れた後、彼とは全く会っていない。受験が始まり周りは忙しそうにしていた。わたしは全く勉強しなかったし、だからといって、反抗したり恋人をつくったりもしなかった。わたしは何もできなかったのだ。頭がよかった彼は、地元では知らない人がいない有名な大学へ行った。
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