映画館

文字数 1,143文字

高校にはなじめなかった。それを親のせいにしてみたり、環境のせいにしたりしてみるが結局はわたしのせいなのだろう。放課後に彼女と遊んだり、部活帰りにみんなでカラオケにいったりしている同級生が羨ましかった。女の子と話しても、10分持てばいい方だった。友達はいないわけでは無かったし、バカなことをして笑っている時は楽しかった。それでも授業が始まって、一人で席に座ると死にたくなったし、友達はどこか遠くにいるような感じがした。わたしの一番の楽しみは、週末に映画館に行くことだった。素晴らしい映画に出会えれば、その月は素晴らしいものになるが、つまらない映画だと憂鬱になる。わたしは、大きな映画館よりも小さな映画館のほうが好きだった。通学中にバスで通る商店街の奥の方へいくと、くたびれたミニシアターがある。大手ではやらないような映画が多く上映されており、客層も全く違っていた。大きなショッピングモールにあるような映画館は最悪だった。周りは同世代のカップルだらけで、その中にいると自分の居場所が無いように思えた。彼らの笑顔を見ると、劣等感を感じた。ミニシアターはその逆だった。難しい本を読んでいる人や隠れてタバコを吸っているような人など、いろいろな人がいて、たいていはわたしよりもだいぶ年上だった。みんな疲れ果てたような顔をしており、普段の生活に居場所が見つけられないような人たちだった。なんだか自分の将来を見ているようで嫌になることもあったが、それでも行かないよりはましだった。映画をみている最中は、この世界と切り離されたような感覚になり、悪い言い方をすると現実逃避をしているのだった。普段は年上しかいなかったが、たまに同じくらいの年のやつがいて、わたしに話しかけてくる時もあった。彼らとは仲良くやれた。
映画を見終わって、まだ電車の時間が無かったので汚いソファに座ると、先に隣のソファに座っていた大学生くらいの男が話しかけてきた。
「なんの映画をみたの?」
「町で一番の美女ってやつです。」
「あれつまんなかったでしょ。」
「はい。最悪でした。」本当に最悪な映画だった。
「予告でわかるよ。みんな、観に来ちゃいけないって言ってるようなもんだもん。」
「そこでやめるべきでした。他に観るものなくて、暇だったので。」
「金の無駄だよ。みんなクソみたいな映画に釣られるんだ。見たら負けさ、後でつまらなかったって言ったって、金は持ってかれる。そうして調子に乗った監督はまたクソみたいな映画をつくるんだ。」
「そうですね。ところで何の映画をみたんですか?」
「町で一番の美女だよ。」
彼もまた暇人だったのだろう。
それから地元を離れてから、あの映画館には行っていない。当時どこにいてもなじめなかったわたしのたった一つの居場所だった。
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