初恋

文字数 864文字

 わたしは、電車とバスを使い一時間半かけて高校に通った。入学した当初は友達と通ったが、一ヶ月たつと一人で通うようになった。わたし以外みんな部活をやっていたため、帰りも一人で帰っていた。一週間がものすごい速さで過ぎ、これといった楽しみもなかった。学校は好きでも嫌いでもなかったが、朝起きると憂鬱になった。彼女を見つけたのは、そんな時だった。いつも帰りの電車で見つけたが、運が良ければ朝も見ることができた。同じ高校で、部活をやっていないらしく、彼女もいつも一人でいた。鼻が高く、少しラテン系の血が入っているような顔をしており、真っ黒で神秘的な髪を持っていた。そして一番好きだったのは、いつも悲しげな表情をしているところで、まるで悲しみの女王といった感じだった。もっとも元からそういう顔だったのかもしれないが。
 一度だけ彼女と話したことがあった。彼女と同じクラスの友人に、彼女のことを気になっていると話すと合わせてくれたのだ。
「なに?」彼女は少し不機嫌そうに言った。
「いつも電車で見かけて気になってたんです。」
「そう」
「ライン交換しませんか?」
「無理」
「それじゃあ、今日一緒に帰りませんか?」
「それも無理」
その後なにを話せばいいか全くわからず、顔を見合せたまま数秒間沈黙した。
「もういい?」
「はい」
 それからは、また遠くから眺める生活に戻った。後から聞いたが、彼女には中学校の時から付き合っている彼氏がいたらしい。全く嫉妬をしなかったと言えばうそになるが、最初から期待はしていなかった。わたしの顔はひどかったし、しゃべるのも得意じゃなかった。わたしのことを全く気にもとめないことが、かえって心地よかった。それにただ眺めているだけで満足だった。彼女は大きな海で、わたしはそこに浮かぶ小さな船のようなものだった。彼女をみつける前は、何一つ楽しみがなかった。目に見えるものすべてに吐き気を催したし、人は地獄から来た怪物のように見えた。朝電車を待ちながら線路を眺めていて、自殺を考えないことは無かった。それが彼女のおかげで少しは変わったのだ。
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