異世界の紅玉《ルビィ》

文字数 2,996文字

助手君、見たまえ! 素晴らしい! 素晴らしい発見だぞこれは!
そうですね博士! 本当に素晴らしい! これはおそらく、異世界からきた鉱物を含んだ岩石ですね! 流れながれの旅のとちゅう、通りすがったこの鉱山に狙いを定めて良かったですね!
まことに、まことに! 見たまえこの赤い鉱物の輝きを! そして何とも大きいな、漬物石くらいあるんじゃないか? これは相当高く売れるぞ! でへへへ!
博士……発言が生ぐさいです……。
むむ? 君らしくもないな、生ぐさくて当然だろう? なんせ我らは、お互いに「博士」「助手君」と呼び合う仲ながら、本当は「盗掘(とうくつ)を得意とする盗賊」なのだから! この鉱山も他人(ヒト)のもの、こんな珍しい鉱物を掘り出せればボロもうけ! そりゃあ笑いも止まるまい!
もう博士、そんなミもフタもないことを……そんなこと言ったら、僕だって「失恋の痛手で人生を180度転換した、とある語学の研究者」……つまりは「知能指数の高いバカ」じゃないですか!

おお! 自分で自分を「知能指数の高い」とは、なかなか言うじゃないか助手君!

しかし半年前、さえない酒場で「失恋したての君」と出逢った時は驚いたなあ……まさかれっきとした研究者が、このわたしの正体を知って「僕も盗賊になりたいです! どうか弟子にしてください!」なんて言うとは思わなかったよ!

いえ! あれは当然のなりゆきです! 良いところのおぼっちゃんとしてなあなあに生きてきた僕は、あなたの素晴らしくワイルドな生き方に()れたんです! ですから僕は! 憧れのあなたの弟子になり! 共に旅をし! そしていずれは盗掘王に! 僕はなる!!
わわわ、分かった、分かったから! ともかく今はこの赤い鉱物を、このまわりについた邪魔な岩石から()り出そう! まわりのこんな地味な石、ろくな値で売れもしないだろうし、運ぶのに邪魔になるだけだ!
はい! 博士!!

あ~あ、見る人が見れば、この地味な岩にしか見えないまわりの岩もお宝なのに……。「異世界の大地の歴史をひもとく貴重な資料」として、研究のための価値があるのに……。

あ~あ~、ハンマーとツルハシ使ってがんがん岩を砕きにかかるお二人さん……も、もったいな~……。

……あれ? けっこう硬いみたいだね……さっきっから全然岩が削れてないよ~??

はあ、はあ……て、手ごわいな助手君、この岩は……!(汗だく)
(同じく汗だく)ま、まったくもって……最後の手段の人工ダイヤのハンマーとツルハシでも、まったく歯が立ちません……!
ああ、もうあきらめてかたまりごと運べば良いのに……あ、そっか比重が大きいから重いのか……。でも赤い鉱物に未練はあると……。ああ、もう半べそだよ二人とも……!

ああ、これだけ大きな鉱物ならば、取り出して磨けばさぞや価値のある宝石になって、いっぺんで荒稼ぎできるだろうに……!


ああ! 脳裏に浮かぶ「うまい酒」! 肉汁滴る最上級のビーフステーキ!
そしてわたしらのまわりを取り巻く美人の姉ちゃん数ダース! すべての理想(←妄想)がどんどん遠ざかる~!!

……はあ、何とも気の毒なお二人さん……。

……お? お? おおお!? こりゃ何だ、まわりの空気がむらむら歪んで、あっという間に小さな虫の群れがわらわら!

うわあ!? 何だなんだ、蚊の化け物か!?
……ち、違います! 博士、妖精です! 妖精たちの群れですよ! とんぼや(ちょう)の美しい羽根に小人のような可愛い姿、異世界から来た妖精です!!
*妖精たち

『(おそらく異世界で使う言葉で、何やらきらきらしゃべっている)』

ええ、はい……ふんふん、なるほど……。
? ???
ああ、なるほど! そういうことだそうです博士! 地獄に仏とはまさにこのこと!! いやあ、本当に良かったですね!!
いやいや待てまて、どういうことだかさっぱり分からん!

……ああ! そうか、博士は妖精たちの言葉がお分かりにならないんですね! こ・れ・は! ちょっとばかり語学をかじったこの僕が! 初めて博士のお役に立てる! 大チャンス!!

いやうん、嬉しいよ? 嬉しいけどね? つまりどういうことなんだってばよう!!
はい! 通訳しますとこの妖精たち、岩石を食して生きる種類らしいです! 岩石の美味しいにおいにさそわれて、この石の故郷にあたる異世界からわざわざやって来たそうですよ!

*妖精たち

(いっせいにうなずく)

そうして博士! この方たちは赤い鉱物のまわりの邪魔な岩石を、食べさせてほしいとおっしゃってます! 博士! 僕たちは異世界の赤い珍しい鉱物を、手に入れることが出来るんですよ!
お、おおお! 博士が助手君の喜びっぷりにちょっと気後れしているうちに、妖精たちはものすごい勢いで地味な岩に食いついている! いやよく食うなあ! 地味な岩があっと言う間に穴あきチーズみたいに削られてくよ! 赤い鉱物がどんどん(あら)わになってくよ!!
『いやあ、美味しいねえ! いろんな鉱物が入っててさあ……!』(←『』内は異世界語)
『まったくねえ! こいつは人間でいうところの「五目ごはんのおにぎり」ってやつだろうねえ!』
『ちょっと君、ここの朝石(ちょうせき)を食べてごらんよ! 白くて素朴でしみじみ美味い!』
『いやいや、そんなパンチのきかない白石より、俺は玄雲母(くろうんも)が良いな! この薄く()がれる何とも言えない歯ごたえが!』
* * *

*妖精たち

『いやー食った食った! ごちそうさまでーす!!』

あ~あ、おなかいっぱいになった妖精たち、虹色の嵐みたいに元の世界に消えちゃった……。

そしてお目当ての鉱物は!? ……ああ!? こ、これは!?

(あんぐりと口を開けて固まっている)
(同じく固まっている。やがて泣きながら笑い出す)
…………は、博士……!!
いやいや良いさ、いいさ助手君! どのみち彼らの手を借りなけりゃ、鉱物は手に入らなかったんだ。手間賃てことで良いだろう! ほら、見たまえ! ずいぶんと運びやすくなったじゃないか!

……うん、確かに運びやすくはなったねえ……。元の大きさよりどう見ても二回り以上小さくなってるもんねえ……。

なるほど、妖精たちは「地味な岩だけをいただく」とは一言も言っていなかったからなあ! デザートがわりに赤い鉱物もそこそこかじっていっちゃったんだね!

ほらほら、助手君! 二人で快哉(かいさい)を挙げようじゃないか! ほら、ばんざーい!(←もはやヤケクソ)
ううう……ば、ばんざーい!!(←人生で一番派手な号泣)
あーあー、ダメだよ二人とも! そんな大きな声出したらさ……!
――あーっ! あんだこら、てめえたちゃーっ!!

やばい! 向こうから来るのはどうやら本当の鉱山の持ち主だ! 逃げるぞ、助手君!

って、重ーーっ!! こうしてみると小さくなっても相当重いぞ、この鉱物!!

ぐ、ぐぉおおぉ……!! っこっ、腰がぁああぁ……っ!!
うぁああダメだ!! とてもこれを持っては逃げきれん!! 鉱物はあきらめて走るぞ助手君!!
あぁあもう、今日は散々だ! 今日は人生最低の日だ~~!!

――という訳で、結局二人の盗賊はお宝を盗めなかったんだって。

……ああ、「赤い鉱物」はどうしたかって? どこかの王宮に買い取られて、三日後にはもう金庫から無くなってたって話だよ。まるで「誰かに食べられちゃったみたい」にね!(了)

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登場人物紹介

おはこんばんちは! 作者の絵平 手茉莉です!

この話は投稿型サイト「小説を読もう」にあげた同タイトルの小話の「チャットノベル版」です! よろしければ「小説を読もう」内の「文章版」もご賞味を!

*「博士」


「博士」といいながら実は盗賊。相棒の「助手君」と共に旅をしながら、他人の所有する鉱山に忍び込み、勝手に鉱物を発掘・採取しては裏のルートで売り飛ばす「盗掘」を得意とする。

*「助手君」


「博士」の相棒。実はもともと「語学」専門の研究者。ある時こっぴどい失恋をし、たまたま酒場で巡り逢った「博士」のワイルドな生き方に一目惚れ。「僕はこの人についていく! そして盗掘のワザを学び、いずれは盗掘王になる!」と人生を180度転換。知能指数の高いバカ。

*妖精たち


異世界から「ごちそうの香り」に誘われてやってきた、岩石を食べる生き物たち。けっこう大食らい。

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