第3話 私の一部との出会い

文字数 1,746文字

舞踏会まで一週間。

ドレスや仮面の準備をする。
ドレスは前に友達の結婚式で着ていったもので充分だろう。
問題は仮面である。
仮面なんてどこで売っているのだろう。
舞踏会側からの連絡では仮面を貸出することも可能とのことだったが、
他人が付けた仮面をつけるのはなんか気持ち悪い。
なので、安いものを買おうと思うのだがなかなか自分が好きな仮面がない。
ネットショップで色々調べてみたものの、
サイズとかもよく分からないし、どんな仮面がいいかのさえ分からない。
ここはやはり、経験者である友達の出番だ。

「仮面ってどこで買った?」
「私は最初、借りたよ。その後、主催者から教えてもらったお店で自分の買った。
たくさんの種類あるし、頼めばオリジナルのを作ってもらえるんだって。」
「そのお店どこにあるの?」
「えーーっと・・・」

私は教えてもらったお店にナビを合わせて向かっていた。
友達も一緒に行こうかと聞いてくれたけど、一人でゆっくり決めたいと思い、一人で行くことにした。
大通りから脇道に入り、さらに5分ほど狭い道を歩いていると“仮面や”という看板が目に入った。
なんともストレートな名前だし、ドアは錆びついていて綺麗だとは言えない。
そもそも空いているかも分からないぐらい、外からはお店の外観も光も見えない。
でもここまで来たのだ。
半ば強引に自分の気持ちを鼓舞し、ドアを奥へと押す。

「なに、ここ、、、」
店内は15畳ほどで、薄暗く、オレンジ色の電飾で満たされている。
そして壁一面に仮面が等間隔でかけてある。狐のお面から鬼のお面、能面など、ざっとみても200種類以上のお面がかけてあり、ひとつとして同じ仮面は無い。全ての仮面が私の方を向いているようで足がすくむ。全ての仮面に命があるようだ。
「誰だ?」
仮面に睨まれているように感じていると、
低い声だが、どこかうっとりするような、自然の中にいるような声が聞こえた。
声からは年齢が分からない。
「っひ、、」
その声の方に目を向けると、一際鋭い目をした2本の角の生えた鬼のお面がこちらを見ていた。
目の部分は吊り上がっており、眉間に皺が寄っているのはリアルすぎて現実を超えている。
口からも牙が生えており、口角が吊り上がっている。
白を基調としたお面に耳の方から目の下、鼻にかけて黒い線が不気味に引かれている。
眉間と同様、リアルすぎる皺が仮面の様々な場所にある。
そして、その仮面とマッチしすぎている声。
物語の最終局面に君臨するラスボスのようだ。
「初めてだな。まぁ何かあったら言え。」
「はい、、、」
こちらの方に向いていた仮面がゆっくりと下に向き、なにやら手を動かしている。
私はまた壁の仮面と見つめ合う時間を過ごした。

小一時間ほどだろうか。
ひとつひとつのお面の命を感じるように、魅入ってしまっていた。
そして気づいたら私はあるお面の前に佇んでいた。
そのお面は、狐のお面で淡い水色がメインカラーとして使われている。
そして、私が気に入ったのはよく見ると星屑のような少し濃い青色の塗料が塗られているところだ。よく見ないと分からないが、星屑を纏った狐の仮面は神秘的だった。
本能的に、体の内側から身震いするような感覚があり、飲み込まれそうであった。
「君にはそれが一番良い。お面も喜んでいる。」
「え、、、」
「ここのお面は俺が全て1週間かけて作っている。
自分の命を吹き込むようにな。だから分かるんだ。お面の命の声が。
お面も君に見られて嬉しいそうだ。」
「ありがとうございます。私もこれが、、なんというか、一緒にいたいって思います。」
変な日本語になったが、頷くそぶりを見せてくれた。
「貰ってやってくれ。値段は君が決めて良い。
その価値は君が決めて、払ってくれたら良い。」
「そう言われても、、、」
もう一度、私は仮面と見つめ合う。
不思議なことに払う金額が頭の中に、燈のように煌めいた気がした。
「分かりました。お支払いします。」
自分が自分じゃないような、仮面に乗り移られているような感覚に浸って自分の言葉じゃないようなはっきりとした口調で話していた。
「良い顔つきだ。ありがとう。」

結局、私は持っていたお金を全てお支払いしていた。
しかし、全く後悔はない。
清々しく、社会人になってから一番良い買い物をしたとさえ思えたのは、なんとも不思議である。




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