第14話 む笑津でのコンサート

文字数 1,427文字

R6年8月24日(土)14時から1時間、高齢者と介護職員の皆さん50人を前に、私たち「ポコポコ」は11曲を演奏した。フォルクローレ7曲、オランダ1曲、日本3曲である。この演奏会の為にメンバー7人は毎週土曜日の午後2時間練習に費やした。
ケーナ3本、リコーダー1本、ギター1台、チャランゴ1台、ボンボ1台でも演奏である。管楽器がファーストとセカンドを吹く。ギターはコードをストローク或いはアルベジオで弾き歌と和音する。チャランゴもコードを弾き、シャープな和音を奏でる。ボンボはベニアで丸い筒を作り上下に皮を張ったもの。皮と枠木を叩きリズムをとる。
異なった音が混ざり合って和音を作り出す。徐々に練習を積んでいき、少しずつ曲に馴染んでいく。私はセカンドケーナである。メロディーのファーストを何度が下の音をだし、和音を創り出す。弦楽器の音色が混ざって更に心地よい響きが生まれてくる。皆はボンボに耳を澄ましリズムを合わせる。小節の初めのボンという音を全員が気にする。心が音が一致したとき、キリっとしたハーモニーが空間に漂う。「ブラボー」と我々は心で叫ぶ。聞いている高齢者やサポートする職員もカスタネットや鳴り物で演奏に加わる。職員は軽かに曲に合わせ踊る。いつもは一日中目をつぶっている介護者も、力強いフォルクローレに刺激を受け、目を覚ます。音楽が聴こえてくるのだ。
生の音楽は贅沢な音の贈り物である。その時、その場だけに体験できる臨場感あふれる音の世界なのだ。スピーカーや録音で聞くのとは、立体感が全く違う。
「ヴィボ・ポル・ティ」はフォルクローレの傑作である。「私はあなた方を愛しています」というメッセージなのだ。戦争なんかやらず、人々は仲良く生きていくことが最高なのだ。誰もがあなた方を愛していますという気持ち、優しい気持ちを持てば、平和になるはずだ。
この歌の前奏は11小節ある。ギターとボンボのメロディとリズムで始まる。メロディは、三連符とかシンコペーション。私には難しいことだ。他の三人は音楽のベテラン。最初は上手くいかなかった。全員がマッチした時、素晴らしい音が、私の耳に届いた。「トレ・ビアン」アランドロンが言ってくれそうだ。これは私がベテラン三人に漸く追いつきセコンドをきちんと吹けた時だったのだ。
前日、ギターとボンボだけが集まり前奏の練習をしたという。ボンボは田口さんだ。む笑津での演奏を紹介してくれたのは彼女だった。母親が90歳でデイに通っている。自分の演奏の姿を母親に見て聴いてもらいたかった。今年の春、我々はみ笑津で初めての演奏をした。二日前、母親は救急車で病院に運ばれ、演奏は聞けなかった。演奏日の当日、メンバーは事前に集まり練習する。8曲終わったところで、田口さんは途中で抜け出した。眩暈がして立っていられなくなったという。1時間休憩すると体調が戻った。皆でサンドイッチなどの昼食とり彼女も回復した。昨晩、母親の介護の為2時間おきに起きたという。寝不足の疲れで、眩暈がしたという。
演奏会場で演奏、沢山の高齢者も我々の音楽とともに盛り上がってくれる。我々も半年の成果をおもいきり出し尽くして楽器を演奏する。終った時全員が大きな拍手、ブラボー、アンコールといい、無事演奏会が終わった。別室に戻ると管理者や職員が誉めちぎってくれる。また演奏に来てくださいという。田口さんが演奏が終わった時、前列にいる高齢者に声をかけていた。彼女の母親がきていたのだ。
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