第1話

文字数 1,077文字

 ある裁判の最高裁判決に注目が集まった。交通事故で現場から立ち去った車の目撃証言として、3歳児の「赤いブ~ゥブ~ゥ」に証拠能力があるかどうかについてだった。
 いつの頃の話か? 今となっては記憶は曖昧(あいまい)だが、「法律の世界も面白そうだな」と思ったことは朧気(おぼろげ)ながら覚えているので、恐らく私が高校生の頃の話ではないだろうか?

 そして時は今、庄内の外来診察室でよくあるお話。
 「先生、あの赤い薬、いんねぇ。」
 「先生よぅ、白い湿布より肌色の湿布の方がいいの~。肌色の奴くれ~。」
もっと困ったのは、
 「○○医院から出してもらった青い粒の安定剤の方がよく効いたから、それを出してくれ~。あれはよく眠れたの~」
 

  

(←今は昔、山口百恵の「プレイバック」)
 「『青い粒の安定剤』? それじゃぁ、3歳の子供の『赤いブ~ゥブ~ゥ』と同じレベルですよ。薬の名前とか、現物はないですか?」
 「ねえの。」
 「じゃあ、お薬手帳は持っていませんか?」
 「持ってねえの~」
 「…。」
 困る。ホントに困る。
 「お婆ちゃん、『赤いブ~ゥブ~ゥ』は町ではいろんな種類の車が走っているように、『青い色の安定剤』だけではお薬は出せませんよ。」
 昔、駄菓子屋で大玉という飴を売っていた。「黄色い大玉をひとつと、赤いのをひとつ下さい。」と色を選んで飴玉を買った餓鬼(がき)の頃を懐かしく思い出すのだが…、それとこれとは違うでしょう。ふ~。
 「何々色の薬」という診察室でのやり取りはお年寄りの患者さんに多い気がする。お薬手帳の普及と地域への啓蒙活動の結果、薬に対する患者さんの認識も変化の(きざ)しがある。
 処方する薬の効能、副作用などを一方的に説明しただけでは不十分だ。説明を受けた相手が理解して初めて説明したことになる。『赤いブ~ゥブ~ゥ』には『赤いブ~ゥブ~ゥ』にあった説明の仕方が必要なのだ。
 近未来に外来に登場するであろう人工知能(AI)は、果たしてそこまで理解して、相手に合わせた情報伝達ができるのだろうか。

 さて写真は 2015年5月、田植え後の田んぼの畦道(あぜみち)に止めた私の愛車 cube(キューブ) である。田植え直後の鉄道風景写真を撮りに行った際に撮影した。

 私が庄内に赴任して6か月後に購入し、以来13年近く乗り続け、走行距離は 270,000 Km に達した。
 『緑のブ~ゥブ~ゥ』は田んぼの畔道を走っても周囲の色彩に溶け込みあまり目立たない。庄内の自然を愛する撮り鉄の私にとって、車体の緑は庄内地域では保護色なのだと大いに気に入っている。
 んだんだ。
(2022年8月)
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