第2話窮屈な笑み

文字数 648文字

「一緒に、どう……かな?」
 頭上から僅かに震えた声がして、顔を上げると整った顔だちの女子生徒が正面に立っていた。
「あ……っ良いです、けど」
 声を掛けられ、裏返った返事をした私。
 誰かに声を掛けられるとは夢にも思わず、油断していた。
 私のような根暗な人物に声を掛けるもの好きが居ないだろう、とそんな悲観していた私には驚愕した。
 いかにも周囲の人々が惹きつけられそうな明るさを纏っており、陰キャ側ではない女子で、怯まずにはいられない。
 彼女は安堵の息を吐き出しながら右手の掌を広げて胸を押さえる。
 そして肘掛けを挟んだ隣に腰掛け、微笑んだままで提げていた小さな袋から包装された袋を取り出して封を開ける彼女。
 器用に袋からチョココロネを押し出して、チョココロネを三分の一くらいまで齧り、咀嚼する。
「……」
「んっ、美味しい。外で食べるのも良い……沙穂さんは、誰かと食べないの、昼食を?」
「はい、そう……ですね。親しい人は居ない、ですから……」
「そう……ごめんなさい、無神経なことを訊いてしまって。ええっと、ご迷惑でないのでしたら……私と、お友達に、なってくださりませんか?」


 ♢♢♢

 私は未だに彼女が声を掛けてくれた経緯を聞けずにいた。
 入学式から一ヶ月程した頃に、一人で中庭のベンチに腰掛け寂しく昼食を摂っていた私に声を掛けてくれた上里梨緒に。

 数人の女子が群れる中で、上里は窮屈そうに笑顔を張り付かせ周囲に合わせている。

 遠巻きに捉えた彼女は脆い少女に見える。

 私は、彼女みたいにあそこまでいけない。
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