2 トラブル
文字数 1,539文字
「ありえないんだけど!!」
周りに配慮したある程度の声量で叫び、両手の拳をブンブンと振って怒りを散らした。
それでも緩和されない憤りを、社内休憩スペースの丸いテーブルに突っ伏して、押し込めようと試みる。
抑えきれない分は、唸り声となって排出された。
「うん、分かるよ。だから少し落ち着いて」
「私が何したって言うのよ~…」
同僚の遥香 に頭を撫でられ、慰 められながら愚痴を溢 す。
今までだって大して幸せだなんて思ったことはないし、思い描いていた未来とはほど遠い毎日だったけれど、満足とはいかないまでも、それなりに充実はしていた。
でも今日は、割り増しで散々な一日だった。
伯母に懇願されて、付き合いで仕方なく行ったお見合いで、初対面の男に強引に唇を奪われ、多少の気持ち悪さを我慢して会社に戻れば、彼の顔がちらついて、作成する書類はミスばかり。
極め付きは、始末書もののメールの送り間違い。
その対応に追われて身も心もズタボロになった。
なのに、仕事の疲れよりも、お見合いの疲れの方が勝 っていて、早坂さんに対する苛立ちはまだ消えない。
ここまで男運が無いのか…
落ち込むと言うよりは、自分の人生を呪いたくなった。
光射す明るい未来なんて、私には永遠に訪れないんじゃないかとさえ思う。
もう少し若い頃は、私にだって乙女な未来の展望があったのに…
「んじゃ、明日は休みだし、飲みにでも行く?」
遥香の弾む声にガバッと顔を上げた。
「行く!飲み明かしてやる!」
「あ、もう元気になった」
軽やかに笑う遥香と肩を並べ、お酒の香りが漂う街へと繰り出した。
三軒ほど梯子 をし、日頃の鬱憤 を晴らすがごとくお喋りを続け、日付が疾 うに変わった時間。
羨ましくも彼氏が迎えに来た遥香と別れて、独りでタクシーに乗った。
自宅近くの大通りで下ろしてもらい、夜中の静まり返った道を足早に歩く。
街灯があるとは言え、静かな闇には女性としての危機感と恐怖を感じる。
バッグの中に家の鍵を確認し、更に歩を早めた。
無事にマンションへ着き、オートロックを外してエレベーターで7階へ。
出来るだけヒールの足音を立てないように廊下を歩き、自室の前へと辿り着いた。
「こんばんは」
突然、子供の声がした。
部屋のドアに鍵を差し込んだまま、声が聴こえた方向を見て視線を落とすと…
10歳くらいの男の子が両手を後ろに組み、微笑みを浮かべて佇んでいた。
正直、子供は苦手。いや、嫌い。
そもそも、悪夢のお見合いと仕事のトラブル対応で疲弊 した私の心は、子供の相手をする余裕ゼロ。
そのうえ今は午前2時。真夜中だ。
同じマンションの子供だと思われるが、この歳の子がこんな夜中に一人で出歩いているなんて、絶対に穏やかな家庭環境の子じゃない。
もうこれ以上、面倒事に巻き込まれるのは、まっぴらごめんだ。
酔った勢いに任せて「相手にする必要はない!」と思い、私は軽くあしらう事にした。
「こんなところで何をしてるの?早く家に帰りなさい」
と、言いながら鍵を回しドアを開けた。
開いたドア越しに男の子の様子を見てみると…
私を見つめて小首を傾 げた後、はっと慌ててドアのこちら側に回り込んできた。
「お姉さんの願いを叶えるお手伝いをしたいんです!」
「何それ?何かのゲーム?学校の課題かしら?なら、私は付き合えないから別の人にお願いしてね」
時間のことにはあえて触れず、今出来る最高の柔らかな微笑みで突き放した。
けれど…
*
周りに配慮したある程度の声量で叫び、両手の拳をブンブンと振って怒りを散らした。
それでも緩和されない憤りを、社内休憩スペースの丸いテーブルに突っ伏して、押し込めようと試みる。
抑えきれない分は、唸り声となって排出された。
「うん、分かるよ。だから少し落ち着いて」
「私が何したって言うのよ~…」
同僚の
今までだって大して幸せだなんて思ったことはないし、思い描いていた未来とはほど遠い毎日だったけれど、満足とはいかないまでも、それなりに充実はしていた。
でも今日は、割り増しで散々な一日だった。
伯母に懇願されて、付き合いで仕方なく行ったお見合いで、初対面の男に強引に唇を奪われ、多少の気持ち悪さを我慢して会社に戻れば、彼の顔がちらついて、作成する書類はミスばかり。
極め付きは、始末書もののメールの送り間違い。
その対応に追われて身も心もズタボロになった。
なのに、仕事の疲れよりも、お見合いの疲れの方が
ここまで男運が無いのか…
落ち込むと言うよりは、自分の人生を呪いたくなった。
光射す明るい未来なんて、私には永遠に訪れないんじゃないかとさえ思う。
もう少し若い頃は、私にだって乙女な未来の展望があったのに…
「んじゃ、明日は休みだし、飲みにでも行く?」
遥香の弾む声にガバッと顔を上げた。
「行く!飲み明かしてやる!」
「あ、もう元気になった」
軽やかに笑う遥香と肩を並べ、お酒の香りが漂う街へと繰り出した。
三軒ほど
羨ましくも彼氏が迎えに来た遥香と別れて、独りでタクシーに乗った。
自宅近くの大通りで下ろしてもらい、夜中の静まり返った道を足早に歩く。
街灯があるとは言え、静かな闇には女性としての危機感と恐怖を感じる。
バッグの中に家の鍵を確認し、更に歩を早めた。
無事にマンションへ着き、オートロックを外してエレベーターで7階へ。
出来るだけヒールの足音を立てないように廊下を歩き、自室の前へと辿り着いた。
「こんばんは」
突然、子供の声がした。
部屋のドアに鍵を差し込んだまま、声が聴こえた方向を見て視線を落とすと…
10歳くらいの男の子が両手を後ろに組み、微笑みを浮かべて佇んでいた。
正直、子供は苦手。いや、嫌い。
そもそも、悪夢のお見合いと仕事のトラブル対応で
そのうえ今は午前2時。真夜中だ。
同じマンションの子供だと思われるが、この歳の子がこんな夜中に一人で出歩いているなんて、絶対に穏やかな家庭環境の子じゃない。
もうこれ以上、面倒事に巻き込まれるのは、まっぴらごめんだ。
酔った勢いに任せて「相手にする必要はない!」と思い、私は軽くあしらう事にした。
「こんなところで何をしてるの?早く家に帰りなさい」
と、言いながら鍵を回しドアを開けた。
開いたドア越しに男の子の様子を見てみると…
私を見つめて小首を
「お姉さんの願いを叶えるお手伝いをしたいんです!」
「何それ?何かのゲーム?学校の課題かしら?なら、私は付き合えないから別の人にお願いしてね」
時間のことにはあえて触れず、今出来る最高の柔らかな微笑みで突き放した。
けれど…
*