#3.1 どこかで朝食を
文字数 3,534文字
むかしむかし、あるところに、お兄さんとお爺さんとお爺さんがいました。
最初のお兄さんは俺です。かつて魔王と呼ばれ、世のため人のためと働きましたが、今はただの良いお兄さんです。
その次のお爺さんは、名前をアッ君といいます。勇者になり損ねた、ただの厄介なジジイです。
その次のお爺さんは、名前をシロちゃんといいます。三番目の勇者になり損ねた、ただの厄介なジジイです。
最初のお兄さんは俺です。かつて魔王と呼ばれ、世のため人のためと働きましたが、今はただの良いお兄さんです。
その次のお爺さんは、名前をアッ君といいます。勇者になり損ねた、ただの厄介なジジイです。
その次のお爺さんは、名前をシロちゃんといいます。三番目の勇者になり損ねた、ただの厄介なジジイです。
俺達三人は、とある事情で都会に来ています。ですが、その都会でも端っこのシロちゃんの家にいます。クソ汚ったないお家です。でも我慢します。屋根があるだけましですから。ああ、腹減った。俺は朝飯を要求します。それは当然の権利だと思っています。
俺が立ち上がると、急にアッ君とシロちゃんが物欲しそうにエロい視線を向けてきた。
身構える俺にアッ君が瞳を潤わせている。
シロちゃんも何かに混ざりたいようだ。仕方ない。二人まとめて返答してやろう。
俺は鬼でも悪魔でもない。腹を空かせた哀れな老人を放置するなど、出来ぬ相談だ。慈悲を振りかけてやらんでもない。だが、そんな義理は、無い。
そう言って俺は振り向いた。アッ君、その手に光るものは何だ? おい、シロちゃん、口から溢れているものは何だ?
俺達は無言で見つめ合った。俺は逃げる隙を、アッ君は俺を襲う隙を、シロちゃんは人生の隙間を探している。たかだか飯の事くらいで、なんなんだ、この異様な殺気と白けた空気は。
シロちゃんが、いきなり俺に白衣を投げてきた。
ここで説明しておこう。俺は大魔王に相応しく、ビシッと執事服で極めている。アッ君は一見、登山者のようだ。そしてシロちゃんは今も昔も白衣だ。
そんなシロちゃんが俺のことを気遣ってくれている。俺は何か、間違いを犯すところだったのか?
そんなシロちゃんが俺のことを気遣ってくれている。俺は何か、間違いを犯すところだったのか?
シロちゃんが、アッ君にも白衣を投げつけた。これで3人とも白衣を着たことになった。白衣、白衣、これも元・白衣だ。小汚いシミや汚れで、洗濯した歴史を持ちわせていないようだ。
何故か3人でシロちゃんの家を出た。するとシロちゃんが右手を伸ばして、遠くを指差している。
何故かシロちゃんとアッ君とで話が進んでいる。
俺達3人は豪華なレストランの入り口に立っている。豪華さにビビったのか、アッ君が俺の袖を引っ張る。
息ぴったしの二人だ。ついでに鬼の形相まで同じだ。
二人の形相が、ただのジジイに戻った。とても人とは思えない変貌ぶりだ。
シロちゃんも何か言いたげだ。
今更だが説明しておこう。俺とアッ君は大体同じ歳だ。だが俺と違ってアッ君は歳以上に老けて見える。いや、実際、真性のジジイだ。シロちゃんは、初めて会った時からジジイだった。よくその歳で俺を倒そうなどと考えたものだ。それにシロちゃんを勇者に採用した方も気が触れているとしか思えない。もしかしたら最初から〇〇を期待していたんじゃないのか?
シロちゃんが店の重い扉を軽々を開けている。どこからそんな力が湧いてくるのか不思議だ。これが人の業というやつか。
高そうな店なだけのことはある。すぐに案内係が飛んできたが、何故か俺達をジロジロと見定めている。まあ、仕方ないだろう。白衣を着たジジイ二人と好青年の俺との組み合わせだ。違和感があって当然だ。
案内係が観念して仕事を続けるようだ。すまぬ。汚いものを持ち込んでしまった。
窓際の席、が良かったのだが、何故か一番奥、それも人目のつかないテーブルに案内されてしまった。せっかくなので、注文の前に例の情報を聞き出すことにした。
そう言いながらシロちゃんが白衣のポケットから、これまた小汚い黒いものを取り出し、それをスリスリし始めた。それは腐ったチョコレートか何かなのか?
その腐った何かを俺の目の前に差し出してきた。大丈夫なのか? 触っても。
どうやら情報とは官報に乗った臨時職員の情報らしい。正式には特殊災害派遣臨時職員名簿だ。だが、そこには20代の学生3人が選出されたとあるだけだ。
アッ君が俺の手の中を覗き込んでいる。エッチなやつだ。まだ言い足りないらしい。
アッ君はそう言いながら、どこからか怒りが湧いてきたようだ。だが、俺のせいにされても困る。俺が決めたことじゃないからな。文句なら政府に言え。
なんと、給仕係が大量の料理を運んできやがったぞ。シロちゃんめー。
だが、まあ良いだろう。死ぬほど食え。それで死んでも構わん。それでは俺からだ。
だが、まあ良いだろう。死ぬほど食え。それで死んでも構わん。それでは俺からだ。
ガシャポン、キーキキ、ウエぇ、ペロリンコ、プッ。
戦いは既に始まっていたようだ。こいつら、よくその歳でこれだけ食えるものだ。おっと、俺も負けるわけにはいかん。ガシャポン、ペロリンコ。
戦いは1時間程続いてようやく終わったようだ。勝敗は全員が満腹でノックアウト。もう、未練はない、次の飯までは。
俺が何気なくそう言うと床に転がっていた二人がゾンビのように生き返ってきやがったぞ。
俺にナイフを突きつけて何を頼んでいるだ? アッ君。それがモノを頼む態度なのか?
何を許してくれるんだ? シロちゃんよー。
アッ君が更にナイフを俺に近づけてくるぞ。
ヒューストン。アッ君の握っていたナイフが重力か引力かで床に刺さったぞ。おー怖え。だが、もっと怖いのは二人が泣き出したことだ。
世間の冷たい視線を感じる。これではまるで俺が苛めているみたいじゃないか。ということで俺は適当に誤魔化すことにした。
今度はフォークを突きつけるアッ君だ。手のひら返しもいい加減にしてくれ。