#5.1 Go カート

文字数 3,012文字

むかしむかし、あるところに、お爺さんとお爺さんとお爺さんと3人の若者がいました。
最初のお爺さんは、かつて魔王と呼ばれ、好き放題な人生を送ったと聞いていますが、今はただの自己中なジジイです。
その次のお爺さんは、名前をアッ君といいます。勇者になり損ねた、ただの厄介なジジイです。
その次のお爺さんは、名前をシロちゃんといいます。三番目の勇者になり損ねた、ただの厄介なエロジジイです。
そして3人の若者、少年Aと少年B、少女Aは将来、勇者になるかもしれない若者達です。
どんぶらこのスイート・ポテト号が南の島に到着しました。接岸したら、わんさかと人が溢れ出てきました。その流れに流されてマオ達も押し流されていきます。そこに身なりのいい男性が近づいてきました。殴るのでしょうか。
親切を繋げに来た者です
船長か? 船長だな
マオが嬉しそうにその男性を突っ突きます。何がそんなに嬉しいのでしょうか。
いいえ、違います
マオの顔から喜びの笑顔が消えていきます。人生の全てを失ったような顔です。
何だ、違うのかよ。なら、あっちへ行けよ
途端に態度を変えるマオです。恥ずかしくて見ていられません。アッ君は全然関係ない方角を向いています。シロちゃんは……目を細めて何かを探しているようです。
私は船長の友人です。あなた達を迎えに来ました
友人だと? まあいいか。それで、どこに行くのだ?
それは、秘密です。ですが、ええ、とってもいい場所ですよ
そこで飯は食えるのか?
勿論です、食事どころか、あんなことまで、ええ
なる……ほど。では頼む
かしこまりました。では、こちらに
マオの顔から消えていた笑顔の代わりに、何やら得体のしれない、いやらしい表情が浮かび上がってきました。それはシロちゃんも同様です。アッ君は、どさくさに紛れて何か盗めるものを物色していたようです。
行くぞ、アッ君。出発だ
ああ、貧乏人だらけだ。これだから豪華客船の方がいいと言ったのに。なあ、マオ
アッ君が振り向くと、他の二人は既にそこにはいませんでした。他の二人は『あんなこと』に釣られて迎えに来た男性の後を高速移動中です。
マオ達は豪華な観光バスの前に立っています。これに乗るのかとワクワク・ドキドキのマオです。何時になったら乗り込むんだよバカ野郎、とマオが地団駄を踏んでいると、そのバスが走り出してしまいました。
ああ、うう
さあ、行きましょう。その先です
バスが通り過ぎて見えてきたのは、よくゴルフ場で見るカートが止まっています。
これに乗ってください
ああ、うう
半泣きのマオです。それを突き飛ばしてアッ君とシロちゃんがカートに乗り込みました。
アッ君は運転者の隣に乗りながら腕を組んでいます。キョロキョロ見回すのはお馴染みです。
風もいい、日差しもいい。本当に南の島だな。なあ
日焼け止めを忘れた
応えたのはシロちゃんです。マオは頬を膨らませています。
暫くしてカートは断崖絶壁の岬付近を走行しています。落ちたら……考えたくもありませんね。そこで何故かカートが止まってしまいました。
皆さん、ここで一旦休憩しましょう。さあ、降りてください
船長の友人に催促されるままカートを降りる3人です。ここで崖の下を覗き込む3人もお馴染みです。その隙にカートが3人を置いて走り出しました。それをマオが追いかけます。
おーい、待てよ
頑張ってくださいね
船長の友人は手を振りながら去って行きました。何もない、落ちたら危険な岬の先端です。
何を頑張れって言うんだ?
それに答えるかのように一機のドローンが飛んできました。これにピンときたマオです。
おい、お前達。これから特殊災害派遣がやってくるぞ。ここが戦場だ
はあ? 俺には関係ないことだ
アッ君が真っ先に反応しました。さすがは敗者です。
それは俺も同じことだ。だがな、俺達はここに連れてこられたんだ。いいか、魔王としてだぞ
だから?
なんだよ、アッ君。アッ君も魔王の一味ってことだろうが。シロちゃんもそうだぞ
わしもか
そうだよ
俺は知らん
俺もだよ。だがな、政府の連中は、そうは見ないぞ
話せば、分かる
だったら、そうしろ。俺は……逃げる
おや、最初はやる気があったようなマオでしたが、話の流れで逃げることにしたようです。
待て。巻き添えになってはかなわん。俺も逃げる
わしもじゃ
3人揃って駆け出しましたが、もう時は遅かったようです。前の方から人が歩いてきます。
派遣職員だ!
アッ君が立ち止まって叫びます。姿はまだよく見えませんが、その気配を感じ取ったのでしょう。さすがは敗者です。
どうするよ、マオ
アッ君が狼狽え始めました。先程の『話せば、分かる』という言葉はどこに行ったのでしょうか。
仕方ない、受けて立つ。お前達もやれ
おい、マオ。なんで俺が魔王の手先にならんといかんのだ!
待てよ、アッ君。魔王国に就職したいんだろう
それとこれとは話が別だ。俺のポリシーがな
じゃあ、再就職は『無し』ということで
次元の違う話だ。そうだろう、シロちゃん
わしはどっちでもええ。長生きしたもん勝ちじゃ、オーホホホ
ほら、シロちゃんもそう言っているぞ
プライドってもんが無いのか。仮にも勇者だぞ
敗者だろう。いい加減、その変なプライド、捨てろよ
俺は、俺は
おいでなすったぞ
とうとうやってきました。成り行きとはいえ魔王としての、国を賭けた戦いです。もう、四の五の言っている場合ではありません。私は高みの見物です。
勇者候補の3人が、その姿を現しました!
教授!
そうです。あの3人です。図らずとも師弟対決の様相も含んでいます。さぞかし複雑な気持ちでしょう、シロちゃん。
やはりな、お主達であったか。分かっておったぞ、その娘の足に触れた時からな。オーホホホ
シロちゃんは全く動じていないようです。自己中のシロちゃんです。セクハラ行為で何が分かったというのでしょうか。ただ触りたかっただけでしょうが。
マオは一歩前に出ます。何か言いたげですが、転びそうです。
戦う前に行っておきたいことがある。俺は魔王じゃないぞ
マオさん。今更それはないですよ。目の前の敵を倒せ。僕達はそう聞いてきました。それが誰であろうと僕達は躊躇しません
いやいや、確認しておいた方がいいぞ。違っていたら無駄になるからな、お互い
逃げるための嘘を言っているのよ
僕もそう思う
お前達、そんな思い込みで、これからもやっていくつもりか。確認しても遅くないぞ
動揺したのでしょうか。勇者候補3人が顔を合わせて何やら相談です。
マオさんの言っていることは一理ある。もしもってこともあるから、一応、確認してもいいんじゃないか。その間は待ってくれそうだし
そうね。間違いないとは思うけれど、念のためには、そうした方がいいかもね
僕も賛成だ。たいして手間でもないし
マオさん! 少し待てもらえますか?
ああ、待ってやるとも
よし、確認しよう
少年Aが政府に確認しています。政府側もドローンのカメラ越しでこの状況は見ているはずです。暫く、静寂した時間が流れます。緊張する場面です。私も緊張してきました。ワクワク・ドキドキが止まりません。
さあ、出ました。政府の回答です。それは『目の前の敵を倒せ』です。その理由は勇者候補以外は全て敵であること、目前にいる者は、それがどのような所属、身分であろうと敵国の者であることには変わりはない。よって全ての敵を撃破、殲滅せよ、です。
残念ですが、僕達はあなた達を敵とみなし、倒します
そうか。なら、どっからでも、かかってこいやー
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登場人物紹介

魔王

私です。魔王城に出稼ぎに来ていたら魔王になっちゃいました。

大魔王(元・魔王)

かつて魔王と呼ばれ、好き放題な人生を送ったと聞いていますが、今はただのジジイです。


魔王の執事? のようなことをしています。

アッ君(剣士)

かつて勇者と呼ばれ、果敢に魔王に挑んだようですが見事に敗れ、その後、悲惨な人生を送ったと聞いています。今はただのジジイです。


本名はアークット・ゲレナ・フォント・ナガイ……です。

シロちゃん(白魔法剣士)

かつて勇者と呼ばれ、果敢に魔王に挑んだようですが見事に敗れ、その後、悲惨な人生を送ったと聞いています。今はただのジジイです。


名前の由来は全身白装束からきています。本名は白金泰造です。

少女A

勇者サークルの代表を勤めています。

お金が大好きで努力が嫌いです。

少年A

勇者サークルのメンバーです。

大雑把な性格です。

少年B

勇者サークルのメンバーです。

優しい性格をしています

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