1節:夢の終
文字数 410文字
この世界では、雨は降らない。
濃い霧が現れては、地面と木々を濡らしてくれる。
しかし、今日はこの森に雨が降っていた。
むせ返るような鉄錆の臭いを、木々たちは浄化してはくれない。
「ズブリ」と柔らかいモノに喰い込む音がする。
また一つ、女の子が肉の塊になる。
鈴虫よりも静かなその断末魔を、木々たちは木霊してはくれない。
澱んだ鉄錆の臭いに身体を浸しながら、ただひたすらに祈る。
「お願い、夢なら覚めて。」と。
「お願い、私に気付かないで。」と。
胸に抱えた分厚い装丁の本は、重いだけで武器になりはしない。
彼が、ゆっくりと私の前で立ち止まる。
もうすぐ私も鉄錆の臭いになる。
頭は嫌に冷静で、そのくせに心臓は早鐘を打っていた。
どちらにしても、うずくまった両足は震えるだけで動けはしない。
彼が、緩慢な動作で腕を振り上げる気配がする。
胸に冷たい感触があったのは一瞬。
「ズブリ」と柔らかく喰い込む音がする。
濃い霧が現れては、地面と木々を濡らしてくれる。
しかし、今日はこの森に雨が降っていた。
むせ返るような鉄錆の臭いを、木々たちは浄化してはくれない。
「ズブリ」と柔らかいモノに喰い込む音がする。
また一つ、女の子が肉の塊になる。
鈴虫よりも静かなその断末魔を、木々たちは木霊してはくれない。
澱んだ鉄錆の臭いに身体を浸しながら、ただひたすらに祈る。
「お願い、夢なら覚めて。」と。
「お願い、私に気付かないで。」と。
胸に抱えた分厚い装丁の本は、重いだけで武器になりはしない。
彼が、ゆっくりと私の前で立ち止まる。
もうすぐ私も鉄錆の臭いになる。
頭は嫌に冷静で、そのくせに心臓は早鐘を打っていた。
どちらにしても、うずくまった両足は震えるだけで動けはしない。
彼が、緩慢な動作で腕を振り上げる気配がする。
胸に冷たい感触があったのは一瞬。
「ズブリ」と柔らかく喰い込む音がする。