1節:夢の終

文字数 410文字

この世界では、雨は降らない。
濃い霧が現れては、地面と木々を濡らしてくれる。
しかし、今日はこの森に雨が降っていた。

むせ返るような鉄錆の臭いを、木々たちは浄化してはくれない。

「ズブリ」と柔らかいモノに喰い込む音がする。
また一つ、女の子が肉の塊になる。

鈴虫よりも静かなその断末魔を、木々たちは木霊してはくれない。

澱んだ鉄錆の臭いに身体を浸しながら、ただひたすらに祈る。
「お願い、夢なら覚めて。」と。
「お願い、私に気付かないで。」と。
胸に抱えた分厚い装丁の本は、重いだけで武器になりはしない。

彼が、ゆっくりと私の前で立ち止まる。
もうすぐ私も鉄錆の臭いになる。
頭は嫌に冷静で、そのくせに心臓は早鐘を打っていた。
どちらにしても、うずくまった両足は震えるだけで動けはしない。

彼が、緩慢な動作で腕を振り上げる気配がする。
胸に冷たい感触があったのは一瞬。
「ズブリ」と柔らかく喰い込む音がする。
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登場人物紹介

田辺美乃/タナベミノ/高校一年生/図書委員/黒髪長髪/貧乳/ブックワームだけど根暗ではない



茂木真琴/モギマコト/高校一年生/帰宅部/茶髪ボブ/スパッツ/元気印/ムードメーカー


西淀莉麻/ニシヨドリマ/高校一年生/帰宅部/茶髪ボブ/おしゃれ/ファッションに詳しい/親友の真琴の抑え役


飯沢雪姫/イイサワユキ/高校二年生/図書委員/黒髪長髪/ゆるふわ癒し系/面倒見がいい


海野月/ウミノユエ/高校一年生/軽音部/黒髪ショート/図書館にはバンドスコアを借りに来ている

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