第1話

文字数 755文字

 あっ、と声を上げる前に、私の体が後ろに引き込まれる。起こりうる言動が浮かび上がり、恐怖から目を閉じた。
 これはやばい、怪我するーーー
 ドンっ! ではなく軽くトンっと地面より一面に当たる。何かが柔らかなクッションになったようだ。
 怪我どころか痛みすらない。
「イテテ・・・・・・」
 男子のような低声が、何かで痛がっているように聞こえた。
 私は閉じていた目をゆっくりと開ける。目の前には男子学生が横たわっていた。
「だ、大丈夫ですか!」
「大丈夫、大丈夫」
 すぐさま男子学生に離れて立ち上がる私。完全に男子学生の上に乗っていたようだ。
 大丈夫か、と私が聞いたら、手のひらをひらひらと揺らす男子学生。横たわっている状態に手を差し伸べる私。
「あーっ、ビックリした」
 男子学生が私の手を握り、反動で起き上がった。
「すみません! まさか階段から滑り落ちそうになるとは思わず!」
 この出来事が起こる前に友達と階段をのぼりながら話をしていた。私の手には教科書やノート、筆箱を胸元に当てる形で持っていたのだ。
 友達とのお話を夢中になり、つい上履きが次の段階に乗らなかった。そのまま私は階段から滑り落ちそうになる。
 それを男子学生が助けてくれたみたいだ。何度も頭を下げて「すみません、本当にすみません」と謝る。
 傍から見れば痛まれなくなったのだろうか。
「もう大丈夫だから、気にしないで」
 起き上がっても平気そうに話しかけてくれる。どうやら許してくれたみたいだ、と悟った。
「じゃあ」
 男子学生も移動教室だったのか、同じく別の棟にいる。ネクタイ色で学年が決まるのだけれど男子学生とは同学年みたいだ。
 颯爽と去る後ろ姿が広く大きく見えた。安心感なのかは分からないけれど、胸の中にストンと落ちる。
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