第1話

文字数 993文字

 大学のサークルの部室は、貧乏大学のそれらしく、プレハブ建てのおんぼろだ。
 今日は、活動の曜日ではないが、暇な連中が集まって、のんきにボードゲームに興じている。ネットゲームでないのは、『レトロ文化研究会』という、なんだかわけのわからないサークル名のせいだ。そして、俺は別にレトロ文化なるものに興味があるのではなく、のぞいてみたらかわいい女の子が多かったので、入会してしまったというクチ。
俺の番が来たので、サイコロを振ったら、「運の悪かった日の話」というマスにとまった。

 とたんに、中学一年生の秋のあの事件を思い出した。

「俺の中学校さ、三階建てなのに、エレベーターのないひどい学校でさ、」
「えー!!あたしのガッコ、ちゃんとあったよ。」
「足とか折ったらどーすんの?」
「まあ、聞けよ。給食、ありんこみたいに、人力で運ぶわけ。」
「へーえ。それで?」
「その日は、食缶係で、まるい食缶持って、3階まで上がったんだ。1年生なんて、何より楽しいのは追っかけっこだろ。人のペンケース持って走ってるやつがさ、俺のほうに向かってきたんだ。よけようとして、足滑らして、バランス崩して。」
「うわ…。」
「食缶の中身、俺にかかって、ローカじゅうにちらばって。」
「…。」
「運の悪いことに、その日の給食、カレーだったんだ。」
「で、どうなったの?」
「担任がとんできて、副担の家庭科のせんせー呼んで、俺は調理室に連れていかれた。その前に、体操服取りに行かされた。走っていたやつは、学年主任に呼ばれて行った。」
「カレーまみれの俺は、調理室で体操服に着替えて、カレーを水道で洗い落としてから洗濯機に制服をぶち込んで。体操服に着替えてとぼとぼ教室に戻ったんだ。クラスのやつらの、食べ物の恨みを買って、白い飯を食べるのか。あとがこえー…ってさ。」
「みんなで、カレー抜きのカレーライス食べたの?」
「それがさ、担任が学校中回って、ほかのクラスの余ってるカレー汁集めてきてさ。無事、ちゃんとカレーが食えたんだ。ありがたくて、涙出そうだったよ。」
「それ、運悪くない話じゃないの。」
「クラスメイトから一か月からかわれた。帰ってから、親に怒られた。そのあと告った娘に振られた。カレーだらけのローカの掃除、大変だったのよってさ」
「あはは!確かに、運が悪かったね。」
「こんな話してたら、カレー食べたくなったよ。なあ、みんなでカレー食べに行こうぜ。」
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み