第1話

文字数 903文字

 2020年7月15日、東京都の小池百合子知事は拡大する第2波の新型コロナウイルス感染状況を4段階のモニタリング指標で最高の段階「感染が拡大していると思われる」に引き上げた。さらに、医療提供体制においても病床の確保が必要となっており、4段階のうち3段階目にあたる「体制強化が必要であると思われる」まで引き上げた。記者会見でボードを掲げて説明する小池知事は都会の子供たちにも有名で、「百合子のおばさんがダメと言ったでしょ!?」と、母親たちが駄々をこねる子供をたしなめる際にも引用されているらしい。
 同じ頃、大阪府の吉村洋文知事も記者会見をしていた。「新型コロナウイルスの感染者数の増加を見ると、明らかに第2波の到来だ、僕はそう思いますよ。それに対して私たちは以下の対策を検討しています。…」
 小池知事と吉村知事、両者とも感染の最前線での奮闘に頭が下がるが、この記者会見を見る限り断然、吉村知事の方が冴えて仕事ができるように感じた。違いは小池知事の「…と思われる」に対して、吉村知事は「僕はそう思います」「それに対して私たちは…」と会話に主語が明確になっている所だ。主語には述語(=動作)の責任の所在を明らかにする意味合いがある。
 英語の論文を書く時に一番大切なのは結論で、例えば「このワクチンは有効であると思われる」という受動態の表現は、責任の所在を曖昧にする偽善的な表現であり使ってはダメと指導された。「私たちはこのワクチンは有効だと思う」あるいはもっと強い表現をするならば「私たちはこのワクチンは有効であると確信している」となる。
 予報が外れた時のクレーム対策として、気象庁が梅雨明け宣言で「東北地方が梅雨明けしたとみられる」という、受動態の自信のない表現をするようになったのも逆の意味で同じである。

 さて写真は、2017年10月、頭を垂れた稲穂と羽越本線の鈍行列車である。

 全国で有数の米どころ、庄内の収穫の写真を並べてみると、年ごとに収穫の時期と表情が異なる。ただ言えることは「庄内の米は日本一美味しいと思われる。」ではなくて、「私は庄内の米は日本一美味しいと思う!」
 んだんだ!
(2020年10月)
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