中編

文字数 1,961文字

 そんなある日のことだった。ミー君は高いところの雲を食べながらぼくたちに話しかけてきた。
「みんな、どうしたの。早くおいでよ。早くみんな一緒(いっしょ)においしい雲を食べようよ。」
 ぼくだってがんばっているけど、行きたくても行けないんだよ。いいなあ、ミー君だけおいしそうな雲を食べられて。
 ぼくは心の中で思った。
 その時、ぼくよりも少しだけ下にいるター君が(さけ)んだ。
「ずるいよ。ミー君だけおいしい雲を食べて。ぼくたち今までどんな時もみんなで仲良くやってきたじゃないか。」
「そうだよ。一人でずるいよ。ぼくたち友だちじゃないか。」
 モー君が(さけ)んだ。
「そうだよ。今までみたいに、みんなで仲良くしようよ。」
 サー君が(さけ)んだ。
「ぼくもみんな一緒(いっしょ)がいいよ。」
 ぼくも思わず(さけ)んでしまった。
 ミー君は困った顔で言った。
「ぼくだってみんなと一緒(いっしょ)がいいけど。でも、どうすればいいのかな。」
「ねえ、みんなで手をつながないか。そうすれば、みんな同じ高さになれるはずだよ。そしてみんなで協力してがんばって上を目指そう。」ター君が言った。
「そんなことができるの。」
 モー君が聞いた。
「そう言えば、ぼくも昔聞いたことがある。ぼくたちは自分で上に上がることができないけど、下に降りることはできるんだよ。それで、みんなで手をつなぐと同じ高さになれるんだよ。」
 サー君が答えた。
「分かった。今、降りていくよ。」
 ミー君はそう言って、ぼくたちと手が届くところまでおりてきてくれた。そしてみんなで手をつないだ。すると上にいたミー君が下がって、下にいたター君とサー君が上がってみんな同じ高さになった。
 これでまたみんなで同じ雲を食べて仲良く()らしていける。そしてみんなでもう一度上を目指せる。
 ぼくはそう思った。

「いきなり90回は難しいから、まずは70回からがんばろう。」
 モー君が言った。
「よし、そうしよう。」
 サー君が言った。
 ぼくは何とか70回がんばった。ミー君はまだ70回でも余裕(よゆう)だった。でもサー君は必死で、何とか70回がんばっていた。しかし、ター君はどうしても60回しかできなかった。
「何をやっているんだよ。みんなでがんばるって言ってじゃないか。ター君のせいでなかなか上にいけないじゃないか。」
 モー君が少しイライラしながら言った。
「ぼくだってがんばっているよ。でもなかなか大変なんだよ。」
 ター君は泣きそうな声で答えた。
「いいよ、ぼくはまだ余裕(よゆう)があるから、ぼくがター君の分までがんばるよ」
 ミー君が言った。
 ミー君がター君の分までがんばってパタパタをしたおかげでぼくたちは少しずつ上がっていった。でもミー君以外は90回のパタパタは難しかった。ミー君はみんなの分もがんばろうと90回以上のパタパタをやっていた。でもそれでも日がたつにつれだんだん下に落ちていった。上に上がるのには3日間続けないといけないけど、下へは1日やらないだけで落ちてしまった。

 ある日、ター君が言った。
「もう(つか)れたよ。ぼくは60回でも大変だ。ねえ、もう上に行くのはやめないか。前みたいに30回でいいんじゃないか。それで、みんな楽しかったじゃないか。」
「そうだね。(つか)れるからしばらく休もうよ。」
 サー君も言った。
「どうして、やめちゃうの。ぼくはいやだよ。みんなでおいしい雲を食べようよ。」
 ミー君が言った。
「もう少しだけがんばってみようよ。みんなでがんばれば60回は何とかなると思うよ。そうしたら、おいしい雲が食べられるんだよ。」
 ぼくは言った。
「いや60回は大変だよ。ぼくはちょっとくらい味が悪くてもパタパタが少ない方がいいなあ。」
 ター君は反対した。
「いや、60回ならぼくはがんばれる。やっぱり上の方の雲はおいしいよ。あの味を知ってしまったら今さら30回の雲には戻れないよ。」
 モー君が反対した。
「じゃあ、間をとって、とりあえず45回っていうのはどう。」
 サー君が言った。
 その後もみんなで話し合ったが、結局、話はまとまらなかった。
「これじゃあ、まとまらないよ。だったら、いっそのこと、もう、みんな別々でいいんじゃないか。」
 モー君が言った。
「ちょっと(さび)しいけど、ぼくもその方がいいよ。ぼくはもっと上の雲の味を知りたいんだ。」
 ミー君が言った。
「ぼくもその方がいいよ。とにかく、ぼくはおいしい雲が食べられなくてもいいから、一度、休みたいんだ。」
 ター君が言った。
「ぼくも自分がやりたい回数だけやる方が楽でいいよ。」
 サー君が言った。
「本当はみんなと一緒(いっしょ)がいいけど、みんながそう言うなら、ぼくもそうするよ。」
 ぼくは言った。
 その日からぼくたちは別々にパタパタをすることになった。それ以来ぼくたちはパタパタだけでなく、食べるのも()るのも別々になった。たとえ近くにいても、話をすることもなくなった。
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