第2話

文字数 737文字

 海岸には誰もいなかった。俺は舟から降り、周囲を警戒しながら歩いた。遠くに三人の鬼の姿があった。小さな子鬼が二人、大人の鬼が一人いた。皆、人間と同じように着物を着ていた。子鬼たちは毬を蹴って海岸で遊んでいた。大人の鬼は海岸の奥手にある木陰に腰を下ろして子鬼たちを眺めていた。俺は身を潜めて様子を窺った。聞いていたような鬼の姿ではなかった。赤、青、などの肌色をしていなければ角もない。見るからにそれは人間だった。俺は気配を悟られないように茂った木々の中を歩いた。と、子鬼が蹴った毬が風に流されるように俺の目の前まで転がって来た。子鬼二人が走って来た。俺は茂みから飛び出した。子鬼の一人が振り向いた瞬間、俺は刀を振り抜いた。もう一人の子鬼も声を発する間もなく一振りで絶命させた。傍らに転がる毬を掴み、茂みの奥へ投げた。俺は大人の鬼の方を見た。さっきまでと何ら変わらず、木陰に座って海をぼんやり眺めていた。俺は茂みを伝って大人の鬼の背後に回った。大人の鬼は見るからには人間の女の姿をしていた。俺は息を潜め背後から小刀を首に回した。鬼の住処に案内しろ、と脅した。鬼の女は震えていた。俺は女の手を後ろ手に縛り、小刀を背に突きつけ、鬼の住む集落に向かった。道中は開けた道を避けて獣道を歩いた。女は子鬼のことをしきりに聞いて来たが俺は答えなかった。
 女の姿形は鬼とはいえ、その姿は人間の女そのものだった。薄いが質の良い着物を身に纏い、長く黒く艶やかな髪を下ろしていた。肌はきめ細かく白く、身体は関節が目立たず丸みを帯びていて柔らかな印象を受ける。指先は華奢で細く長かった。鬼も人間と同じように子を産むのだろうか、その尻は豊満に張り、足を前に踏み出す度にその肉感が着物の生地を漲らせていた。

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