第1話

文字数 1,369文字

2023年大河ドラマ『奥州に立つ』が大ヒットし、発案者の野上幸弘はチーフプロデューサーとなった。こうなれば、発言権はぐっと強くなる。
野上には、もうひとつ、ひそかにあたためている企画があった。
大河ドラマで、飛鳥時代をやるのである。

大河ドラマはご存じのように、戦国時代以外は視聴率が取れない。飛鳥時代なんて、皆の大反対に遭うに違いない。
だが今の自分に逆らえる者はいない。
制作統括ですら。

次の会議で野上は発言した。
「2026年の大河ドラマは、持統天皇をやる」
全員がどよめいた。
野上は企画書を提示した。

2026年大河ドラマ
【タイトル】『天上の虹』
【原作】里中満智子『天上の虹』
【脚本】―
【キャスト】

鵜野讃良皇女(持統天皇):尾野真千子
大田皇女:稲森いずみ
中大兄皇子:椎名桔平
大海人皇子:玉木宏
間人皇女:木村多江
皇極天皇:三田佳子
額田王:吉瀬美智子
十市皇女:剛力彩芽
高市皇子:永山絢斗
有間皇子:井浦新
柿本人麻呂:GACKT
大津皇子:桐谷健太
大伯皇女:新谷優愛
中臣鎌足:喜元宏

「まだ、主なキャストしか構想できていないが、作者がこの布陣で見たいと言っている。どうだ」
「飛鳥時代は数字が取れませんが……」
「そうだ。だが戦国も幕末もやり尽くした。鎌倉は、三谷幸喜だからヒットしたのだ。そろそろ色目の変わったものを視聴者も欲しているはずだ」

「原作は、漫画ではないですか」
「私は子供の時から歴史好きで、姉の部屋にあったこの漫画をこっそり読んでいた。男が少女漫画を堂々と読むのは恥ずかしかったからな。『天上の虹』は飛鳥時代を分かりやすく描いているとして長年、老若男女に愛されている。また、やってほしい大河ドラマの原作アンケートで、毎回上位にランクしている。大河初の漫画原作として大いに話題になるだろう」

「三田佳子は、受けてくれるでしょうか」
「数字を獲る秘策だ。異論はあろうが、是非に出ていただく。資料室で観たが、『国盗り物語』の深芳野は、それはそれは美しかったぞ」

原作を読んだことのある一人が言った。
「永山絢斗とGACKTで、あのシーンを撮るのですか」
「もちろんだ。数字のためには何でもやる」

反対意見は強かったが、『奥州に立つ』を大ヒットさせた野上に逆らえる者はいなかった。
里中満智子氏の快諾を得、早々に、決定した。

作者の希望とは別にして、はっきり言ってこれは、野上の好みの女優、尾野真千子と吉瀬美智子へのあてがきなのである。
腹の据わった持統天皇を演じられるのは尾野真千子しかいない。奈良出身なのも何かの縁だ。そして、飛鳥イチの美女・額田王を演れるのは、吉瀬美智子しかいない。

野上はもう、この2女優と仕事が出来るのが楽しみで楽しみで、飛ぶように歩き、歌うようにメシを食った。
ところが撮影直前になって吉瀬美智子が降板を申し入れてきた。ドラマの撮影中の事故で、足を骨折したのである。
「車椅子に乗ってでもよいです。お願いです出てください」
野上は地面に頭をこすりつけて頼んだが、当然返事は否であった。

さあ、代役を誰にするか。方々の事務所にあたったが、今からでは……と、どこからも色よい返事が無い。川口春奈のようなダイヤモンドは、いないものか……!

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