6
文字数 3,489文字
「い、おい……」
「ん……」
「起きろ、黒巣っ!!」
ゴチンッ!!
「わっ、三蔵!? いってぇ……」
今度は頭突きかよ、最悪だな。この女は!
「ようやく起きたな。早速だが、一大事だ」
「は?」
ゆっくり起き上がると、そこには入学式に見たドラゴンよりも大きく、様々な動物の身体が合体したような獣がいた。
「な、なんだよ! これ!!」
「うおー!! グリフォンだ! 初めて見た~!!」
「ぐりふぉん……?」
興奮する柊に、怯える宇佐美さん。
ここはどこだ? まだ元の世界は明るかったのに、この世界は真っ暗だ。本当にレベル1のパラレルユニバースムなのか? その割には入学式のときに飛ばされたところより空気が重い。目の前のグリフォンだって、教授たちが倒したドラゴンより強そうなんだが……。
「これと戦うのか?」
「いや、まずはこの世界を知ることが第一だ。ぐりふぉんだかなんだか知らんが、無視しよう」
三蔵のやつ、大物かよ。このモンスターを無視して異世界研究? 俺たち殺されない?
「あーっ! なんでスマホ置いてきちゃったかなぁ~? グリフォン撮りたかった!!」
柊、お前もか。写真なんて撮ってる場合じゃなくね? これ見て怖がってる普通の人間は、どうやら宇佐美さんと俺だけのようだ。
「い、移動するなら早く行きましょう! ぐりふぉんさん、こっちをすごい目でにらんでる……」
「グオオオッ!!!」
「…………」
グリフォンの雄叫びに、俺たち全員固まった。マジかよ! 殺る気満々じゃねーか!!
「お、おい、このままだと俺たち死ぬぞ!」
「そのようだな」
だからなんでお前はそんな平然としてるんだ、三蔵! 柊も残念そうにしょぼくれているだけだし……。ともかく何とかしねぇと!
「おりゃあっ!!」
「シャアアッ!!」
「いやあぁっ!!」
俺が落ちていた石を投げつけると、グリフォンはその大きなくちばしでこちらを突く。宇佐美さんが泣きながら俺の胸に飛び込んできて、攻撃をなんとか回避したのはいいが、そのせいで地面に後頭部を打ちつけた。
「どうやらこれは……」
「使うしかないみたいだね! 魔法っ!!」
ふたりの変人が喜び出した。こんな状況でよく魔法とか言ってられるな。俺たちが魔法を使えるかどうかだって、まだ確実じゃねーってのに。なんてお気楽なんだ。
「じゃあ、ボクから行くよ! こんな時のために、中学高校で呪文を考えてた甲斐があった!」
だからお前はちゃんと勉強しろよ……。しかもその位置に立たれると、パンツ見えるぞ。
「そうだ、文字数確認しないと! MPに限りがあるんだった。え~っと……1、2、3、4……」
悠長なことに、両手を広げて呪文の文字数を確認する始末。そうこうしている間に、グリフォンがこちらに飛んでくる。
「危ないっ! 『風よ! 竜巻を起こせ!』」
「グワアッ!!」
三蔵が呪文を唱えると、見事竜巻が起こる。そのせいで空を飛んでいたグリフォンが少し身体を傾けた。
「やったぞ!!」
「喜んでる場合じゃねえだろ! まだ襲って来るぞ!」
なんとか宇佐美さんと一緒に立ち上がると、今度は柊が前に出た。
「三蔵サンに負けられないからね! ボクも行くよ! 『炎よ、燃えろ』~!」
柊が人差し指を突きさして呪文を唱えると、火がポッとつき、一瞬で燃え尽きた。
「あれ?」
「……燃えたな」
三蔵が真顔で柊の肩を叩く。
「えぇ!? そういうことなの!?」
「MPを無駄にしただけだ。何か触媒になるものがないと意味がない。それか相手に直接攻撃するか」
「難しいな、魔法って」
「楽しく会話してんじゃねーよ! このままだとケガするぞ!」
「ひっ! ケガ!?」
「あ、宇佐美さんはちゃんと守るから」
「何? 黒巣、君は私たちと宇佐美を差別するのか?」
「ひっどー!」
「いや、そういうわけじゃねぇけど……」
お前らゴキブリ並みに強そうだから、と一瞬思ったが、絶対口に出せない。女の子をゴキブリ扱いは自分でもないと思う。でも生命力はそのくらいありそうだよな。
「ごほん、ともかく私は11、柊は7MPを使った。大体あと5回しか攻撃できない。宇佐美、戦えるか?」
「戦う……? 私がですか~!? はう……」
「宇佐美さんっ!」
まずい。宇佐美さん気を失っちまった。一番MP高いのに……。くそ、どうする? 三蔵も柊もまだ戦えるが、5回の攻撃で倒せるのか? こんなやつ。
仕方ない。ここは……。
「三蔵、柊。宇佐美さんを頼む」
「黒巣? 何をする気だ?」
「最終手段に出るだけだ」
「最終? え!? ボクたち終わるの!?」
「とりあえずダメージを与えて逃げる!! 行くぞ、『空気中のガスよ』!」
「ガス?」
ふたりが不思議そうな顔をするが、俺は気にせず続ける。
「『チリチリと散る火花で爆発を起こせっ』!」
呪文を唱え終えると同時に、大きな爆発が起きる。
「グアアアッ!!!」
俺たちも爆風で吹っ飛ぶが、グリフォンの目にも小石が入ったようだ。敵は俺たちを置いて、向こうへと飛び去っていく。……なんとか危機回避ってところか。
「……今のは?」
宇佐美さんを抱えながら、三蔵がたずねる。柊も何が起こったのかわかっていないらしい。
「さっき投げた石……あれは石じゃねぇ。石炭だった」
「だから?」
柊、やっぱりお前は中学からやり直しだ。俺は頭をかいて説明する。
「石炭がそこらへんに落ちてるってことは、少なくてもある程度のガスがあるって思ったんだ。密閉空間じゃなかったから博打だったけど、ラッキーだった」
「ほう、やはり私の目に狂いはなかったようだな」
「……なんだよ」
「MPの消費は29。しかも直接攻撃じゃないから3倍にはならない。よく考えたな」
三蔵がにこっと笑う。ちくしょう、坊主でも無駄に顔がいいせいで、ドキッとするじゃねぇか。こいつは仏頂面よりも笑顔のほうがいい。
「うん……きゃ、きゃあっ! あれ? 三蔵さんに柊さん? さっきのぐりふぉんは?」
「黒っちが倒したよ。逃げてった」
「え、えぇ!? あ、あんな強そうなのをひとりで? 黒巣くんって、すごいんですね!」
「い、いやあ……」
宇佐美さんに手を握られ、照れると、三蔵・柊両人が俺に詰め寄る。
「なんだ、黒巣。私たちが褒めたのと、宇佐美が褒めるのは違うのか?」
「黒っちって、もしかして胸の大きさで差別してる? さいってー」
「お前らな……。それよりもうここにはいたくねぇだろ? 井戸探せよ」
少なくても魔法が使えるかどうかってのは確認できたんだ。もうこんな危険な場所にいる必要はない。さっさと帰りたい。
だけど帰るにはこの世界と元の世界をつなぐ謎の井戸がないと……。井戸はどこだ?
「あのさ、黒っち……」
「言うな、柊。わかってる」
「どうするか、だな」
「どうしましょう!?」
俺たちは途方に暮れていた。ここに井戸はない。どんなに見渡してもないのだ。
「もしかして俺たち、HPがなくなるまでこの世界にいなきゃいけない……とか?」
「はわ~……」
「あっ! うさみん!」
宇佐美さんがまた倒れる。彼女、MP高いのに、これじゃあ戦力にならないな。しかし本当にどうすりゃいいんだ。教授たちや天利先輩じゃないと転移魔法は使えないし、習ってもないし……。
「へぇ、期待の新入生あらわるって感じだね!」
「だが、天利先輩には毎回困らされる」
「あの人、自分がなんで留年してるかわかってないからな」
「3ぼーず先輩!」
「……まとめるな」
智里先輩がメガネを直しながら不機嫌そうに言う。本能寺先輩もうなずいているが、閂先輩だけ笑顔だ。
「ま、いいじゃん。オレたちチームなんだし」
「祝は黙ってろ」
本能寺先輩がドスの効いた声でつぶやくと、閂先輩はしゅんとした。
「なぜ先輩たちがここへ?」
俺たちの疑問を、三蔵がまとめて質問すると、智里先輩がため息をつきながら教えてくれた。
「天利先輩は留年している。それは知ってるな」
「まぁ……新歓の席で言ってましたから」
「あの人、転移魔法が苦手なんだよね。ここ、レベル1の世界じゃなくて、レベル20だから」
「……は?」
「よく生きてたな。俺たちが気づいて命拾いした」
「まさかこんな目にあったのって、天利先輩のせい~!?」
「柊、そんな声を出すな。天利先輩のおかげで、私たちは貴重な経験ができたのだから」
「三蔵、お前、ポジティブすぎて怖い」
「それじゃあ、オレたちと一緒に、元の世界に戻ろう!」
……こうして入学して早々、天利先輩にとんでもない目にあわされた俺たち4人は、なんとか無事に元の世界に戻った。
しかし、問題はそのあとだ。
「ん……」
「起きろ、黒巣っ!!」
ゴチンッ!!
「わっ、三蔵!? いってぇ……」
今度は頭突きかよ、最悪だな。この女は!
「ようやく起きたな。早速だが、一大事だ」
「は?」
ゆっくり起き上がると、そこには入学式に見たドラゴンよりも大きく、様々な動物の身体が合体したような獣がいた。
「な、なんだよ! これ!!」
「うおー!! グリフォンだ! 初めて見た~!!」
「ぐりふぉん……?」
興奮する柊に、怯える宇佐美さん。
ここはどこだ? まだ元の世界は明るかったのに、この世界は真っ暗だ。本当にレベル1のパラレルユニバースムなのか? その割には入学式のときに飛ばされたところより空気が重い。目の前のグリフォンだって、教授たちが倒したドラゴンより強そうなんだが……。
「これと戦うのか?」
「いや、まずはこの世界を知ることが第一だ。ぐりふぉんだかなんだか知らんが、無視しよう」
三蔵のやつ、大物かよ。このモンスターを無視して異世界研究? 俺たち殺されない?
「あーっ! なんでスマホ置いてきちゃったかなぁ~? グリフォン撮りたかった!!」
柊、お前もか。写真なんて撮ってる場合じゃなくね? これ見て怖がってる普通の人間は、どうやら宇佐美さんと俺だけのようだ。
「い、移動するなら早く行きましょう! ぐりふぉんさん、こっちをすごい目でにらんでる……」
「グオオオッ!!!」
「…………」
グリフォンの雄叫びに、俺たち全員固まった。マジかよ! 殺る気満々じゃねーか!!
「お、おい、このままだと俺たち死ぬぞ!」
「そのようだな」
だからなんでお前はそんな平然としてるんだ、三蔵! 柊も残念そうにしょぼくれているだけだし……。ともかく何とかしねぇと!
「おりゃあっ!!」
「シャアアッ!!」
「いやあぁっ!!」
俺が落ちていた石を投げつけると、グリフォンはその大きなくちばしでこちらを突く。宇佐美さんが泣きながら俺の胸に飛び込んできて、攻撃をなんとか回避したのはいいが、そのせいで地面に後頭部を打ちつけた。
「どうやらこれは……」
「使うしかないみたいだね! 魔法っ!!」
ふたりの変人が喜び出した。こんな状況でよく魔法とか言ってられるな。俺たちが魔法を使えるかどうかだって、まだ確実じゃねーってのに。なんてお気楽なんだ。
「じゃあ、ボクから行くよ! こんな時のために、中学高校で呪文を考えてた甲斐があった!」
だからお前はちゃんと勉強しろよ……。しかもその位置に立たれると、パンツ見えるぞ。
「そうだ、文字数確認しないと! MPに限りがあるんだった。え~っと……1、2、3、4……」
悠長なことに、両手を広げて呪文の文字数を確認する始末。そうこうしている間に、グリフォンがこちらに飛んでくる。
「危ないっ! 『風よ! 竜巻を起こせ!』」
「グワアッ!!」
三蔵が呪文を唱えると、見事竜巻が起こる。そのせいで空を飛んでいたグリフォンが少し身体を傾けた。
「やったぞ!!」
「喜んでる場合じゃねえだろ! まだ襲って来るぞ!」
なんとか宇佐美さんと一緒に立ち上がると、今度は柊が前に出た。
「三蔵サンに負けられないからね! ボクも行くよ! 『炎よ、燃えろ』~!」
柊が人差し指を突きさして呪文を唱えると、火がポッとつき、一瞬で燃え尽きた。
「あれ?」
「……燃えたな」
三蔵が真顔で柊の肩を叩く。
「えぇ!? そういうことなの!?」
「MPを無駄にしただけだ。何か触媒になるものがないと意味がない。それか相手に直接攻撃するか」
「難しいな、魔法って」
「楽しく会話してんじゃねーよ! このままだとケガするぞ!」
「ひっ! ケガ!?」
「あ、宇佐美さんはちゃんと守るから」
「何? 黒巣、君は私たちと宇佐美を差別するのか?」
「ひっどー!」
「いや、そういうわけじゃねぇけど……」
お前らゴキブリ並みに強そうだから、と一瞬思ったが、絶対口に出せない。女の子をゴキブリ扱いは自分でもないと思う。でも生命力はそのくらいありそうだよな。
「ごほん、ともかく私は11、柊は7MPを使った。大体あと5回しか攻撃できない。宇佐美、戦えるか?」
「戦う……? 私がですか~!? はう……」
「宇佐美さんっ!」
まずい。宇佐美さん気を失っちまった。一番MP高いのに……。くそ、どうする? 三蔵も柊もまだ戦えるが、5回の攻撃で倒せるのか? こんなやつ。
仕方ない。ここは……。
「三蔵、柊。宇佐美さんを頼む」
「黒巣? 何をする気だ?」
「最終手段に出るだけだ」
「最終? え!? ボクたち終わるの!?」
「とりあえずダメージを与えて逃げる!! 行くぞ、『空気中のガスよ』!」
「ガス?」
ふたりが不思議そうな顔をするが、俺は気にせず続ける。
「『チリチリと散る火花で爆発を起こせっ』!」
呪文を唱え終えると同時に、大きな爆発が起きる。
「グアアアッ!!!」
俺たちも爆風で吹っ飛ぶが、グリフォンの目にも小石が入ったようだ。敵は俺たちを置いて、向こうへと飛び去っていく。……なんとか危機回避ってところか。
「……今のは?」
宇佐美さんを抱えながら、三蔵がたずねる。柊も何が起こったのかわかっていないらしい。
「さっき投げた石……あれは石じゃねぇ。石炭だった」
「だから?」
柊、やっぱりお前は中学からやり直しだ。俺は頭をかいて説明する。
「石炭がそこらへんに落ちてるってことは、少なくてもある程度のガスがあるって思ったんだ。密閉空間じゃなかったから博打だったけど、ラッキーだった」
「ほう、やはり私の目に狂いはなかったようだな」
「……なんだよ」
「MPの消費は29。しかも直接攻撃じゃないから3倍にはならない。よく考えたな」
三蔵がにこっと笑う。ちくしょう、坊主でも無駄に顔がいいせいで、ドキッとするじゃねぇか。こいつは仏頂面よりも笑顔のほうがいい。
「うん……きゃ、きゃあっ! あれ? 三蔵さんに柊さん? さっきのぐりふぉんは?」
「黒っちが倒したよ。逃げてった」
「え、えぇ!? あ、あんな強そうなのをひとりで? 黒巣くんって、すごいんですね!」
「い、いやあ……」
宇佐美さんに手を握られ、照れると、三蔵・柊両人が俺に詰め寄る。
「なんだ、黒巣。私たちが褒めたのと、宇佐美が褒めるのは違うのか?」
「黒っちって、もしかして胸の大きさで差別してる? さいってー」
「お前らな……。それよりもうここにはいたくねぇだろ? 井戸探せよ」
少なくても魔法が使えるかどうかってのは確認できたんだ。もうこんな危険な場所にいる必要はない。さっさと帰りたい。
だけど帰るにはこの世界と元の世界をつなぐ謎の井戸がないと……。井戸はどこだ?
「あのさ、黒っち……」
「言うな、柊。わかってる」
「どうするか、だな」
「どうしましょう!?」
俺たちは途方に暮れていた。ここに井戸はない。どんなに見渡してもないのだ。
「もしかして俺たち、HPがなくなるまでこの世界にいなきゃいけない……とか?」
「はわ~……」
「あっ! うさみん!」
宇佐美さんがまた倒れる。彼女、MP高いのに、これじゃあ戦力にならないな。しかし本当にどうすりゃいいんだ。教授たちや天利先輩じゃないと転移魔法は使えないし、習ってもないし……。
「へぇ、期待の新入生あらわるって感じだね!」
「だが、天利先輩には毎回困らされる」
「あの人、自分がなんで留年してるかわかってないからな」
「3ぼーず先輩!」
「……まとめるな」
智里先輩がメガネを直しながら不機嫌そうに言う。本能寺先輩もうなずいているが、閂先輩だけ笑顔だ。
「ま、いいじゃん。オレたちチームなんだし」
「祝は黙ってろ」
本能寺先輩がドスの効いた声でつぶやくと、閂先輩はしゅんとした。
「なぜ先輩たちがここへ?」
俺たちの疑問を、三蔵がまとめて質問すると、智里先輩がため息をつきながら教えてくれた。
「天利先輩は留年している。それは知ってるな」
「まぁ……新歓の席で言ってましたから」
「あの人、転移魔法が苦手なんだよね。ここ、レベル1の世界じゃなくて、レベル20だから」
「……は?」
「よく生きてたな。俺たちが気づいて命拾いした」
「まさかこんな目にあったのって、天利先輩のせい~!?」
「柊、そんな声を出すな。天利先輩のおかげで、私たちは貴重な経験ができたのだから」
「三蔵、お前、ポジティブすぎて怖い」
「それじゃあ、オレたちと一緒に、元の世界に戻ろう!」
……こうして入学して早々、天利先輩にとんでもない目にあわされた俺たち4人は、なんとか無事に元の世界に戻った。
しかし、問題はそのあとだ。