第44話 名刀 関孫七茜牛刀

文字数 2,367文字

 村の広場に私達は集まりトロール肉を焼いて食べている。
 そしてシルバーは生肉を分けてもらって満足そうだ。

「本当にあんたのお陰だよ」
 私はヒルダさんにビールを飲まされている。
 この世界では下水道が整っていない。
 水は川や井戸から汲んでくる以外は無く日持ちが悪い、しかも雨水などは論外。
 だから日持ちの良いアルコールを含んだ、ビールやワインが消費されている。
 しかし私の知っているビールとは違いなんだか水っぽくて不味い…。
 まあ、あくまでも水替わりと言うことみたい。

「そんなことはありませんよ」
「何を言っているんだい?あの『栄養ドリンク』はそれだけ凄いのさ。しかしこのナイフは切れないね、まったく…」
 そう言いながらヒルダさんは解体しながら、トロールの肉をナイフで切り分けている。

 あ~、どう見ても切れそうもないナイフね。
 そうだわ?!
 私はネットスーパーを立上げ包丁を捜す…。
 う~ん、どれがいいかしら?
 迷う程、ろくなものが無いわ…、あははは!!
 値段は1,000からあるけど。

 これなら良いわ、関孫七(せきのまごなな) (あかね)牛刀180mm、税込み4,671円!!
 ステンレスだし、これが一番高い物だから。

「これを使ってみてください、ヒルダさん」
「まあ!!こんな良いナイフを使って良いのかい?!」
「えぇ、どうぞ、食事のお礼に差し上げます」
「本当かい、ありがとうよ。さっそく使わせてもらうよ」
 そう言いとヒルダさんはトロールの肉を細かく切り分けていく。

「凄いよ、凄いよこのナイフは!!ほら肉どころか骨も簡単に切ることが出来るよ」
 すると周りの女性達が集まってくる。
「本当だ!!よく切れるナイフだ。ねえ、もう少し長いナイフはないのかい?」
「長いナイフですか?ちょっと、待ってくださいね」
 そう言いながらネットスーパーを確認する。
 しかし180mm以上は無くそれが一番長い包丁だった。

「すみません。それが一番長い包丁です」
「そうかい、これで1mくらい刃先があれば、良い剣になるのに…」
 そんなに長い包丁はありません!!

「ねえ、このナイフをもっと持ってないかい?」
「えぇ、ありますけど。私は実は商人なので…」
「ほう、そうかい。では売ってくれないかい?」
「いいですけど、何本ほしいのですか?」
「1本いくらだい??」
 う~ん。仕入れ値に3割載せても6,000円くらいか。
 余り安いのも変だから…。

「1本1万円でどうでしょうか?」
「えっ?!1万円だって!!」
「た、高かったでしょうか?」
「いや、逆だよ。こんなに切れるナイフは聞いたことがない。むしろ安いくらいだ」
 あ~よかった。
「でも今はまだお金が無いんだよ。村興しの為に近くに潜む魔物を狩り、開墾をして生計を立てているから。穀物が実るのはまだ先だし、王都に行かないと魔物の素材も売れず、買い取ってくれる商人も半月に1度しか来ないからね。でもそのナイフがあれば、魔物も狩りやすくなるだろうから、でも今は人数分を買えるだけのお金が無いんだよ」
 魔物を狩るためにはこの包丁があれば倒しやすい。
 でも買えるお金が今は無い…、と言う事ね。

「わかりました。包丁も『栄養ドリンク』と同じで、後払いで魔物の素材や魔石と交換で良いですよ」
「おぉ!!ナイフも後払いで良いのかい?しかも75本も。あんたはなんて、良い人なんだ!!」
 そう言いながら私はヒルダさん達に抱きしめられる。
 あ、いいえ、75本はさすがに…。
 私の持ち出しだけでも35万くらいですけど…。

「ありがとうよ~、スズカさん!!」
「本当にありがとう。あんたは村の救世主だよ」
「助かるよ!!」

 あなた達も75万の借金を背負うのよ、いいの?
 この村の人達はどうせ借金だから400万でも475万でも同じ、と言う考え方なのね。
 借金をしやすいタイプの村なのね。
 わ、わかりましたよ…。

「はい、どうぞ!!」
 そう言いながら私はストレージから75本の包丁を出して台に置いた。
「スズカさん。この名刀の名前は何と言うのかしら?」
「な、名前ですか?え~と関孫七(せきのまごなな)と言う人が鍛えた、(あかね)牛刀です」

 そう言った後で私は思った。
 名刀が75本もあるのだろうかと…。



 その後、スズカはセサルの村を何度も訪れることになる。
 定期的に卸している『栄養ドリンク』と交換する魔石や素材、包丁分など…。

 もらう側も払う側もいくらを貸して、いくら分を素材でもらったのか分からなくなるほどスズカは村に馴染んで行く。
 村人はスズカに喜んでもらうため、(あかね)牛刀と共にたくさんの魔物を駆逐し素材を集めていく。

 ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇

 その後、近郊の魔物は殆ど居なくなり困ったセサルの村人は、自衛団を作り魔物で困っている村があればどこでも駆け付け行動範囲をどんどん広げていった。
 魔物を駆逐しても報酬は要求せず、素材のみをもらって帰っていく。
 しかも彼らは冒険者ではなく、同じ村人の格好をした人達だった。
 スカート姿の農民が魔物を倒していく姿は圧巻だったと言う。

 今でも残っている彼等の伝説はその凄さを物語っている。
 まず彼等の身体能力だ。
 普通なら歩いて3日掛かるところを1日で移動可能だったとか。
 小柄な線の細い女性がトロールを一撃で倒し、軽々と担ぐ姿は圧巻だったとか。
 手に負えない魔物が現れると王都から、セサルの村の自衛団に討伐依頼が来たとか。

 いつしか周りの村人達はかれらのことをこう言った。

『英傑の住む村』と。

 そしてもう1つ。
 名刀関孫七(せきのまごなな) (あかね)牛刀75本は、子孫に愛用され代々受け継がれていく。
 切れ味は物凄く、今でもトロールを一刀両断できる程だと言う。

 その名刀を求め欲しがる人達は国の内外を探したが、関孫七(せきのまごなな)と言う名の刀匠はいくら探しても見つからなかったという。
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