第一章 交錯する想い

文字数 7,782文字

  

 「朝日、学校は?」
カインは買ってきた夕食の材料を冷蔵庫に入れている。居間のソファで寝転がり本を読んでいる少年に返事はなかった。彼は夢中になったら周りが見えなくなる。悪い癖だと何度注意されても腑抜けた返事しかしない。こうなるとカインはいつも本を取っている。
「学校はどうした?」
本を取り上げ朝日の顔を覗き問い詰めた。朝日は頭を掻きながら目をあさっての方に向け深いため息をつき夏休みに入ったよと呟いた。
「行ったかどうかだ」
「夏休みだって」
「明日からだろ?」
朝日は時計に表示されている日付けを目を凝らしてみる。彼は眉をひそめ回る秒針を眺め頭の中で見える日付けを何度も確認する。少しずつ状況の理解をするごとにカインの顔や時計を見たい気持ちが薄れていく。絶対に罰を課せられるそう思ったからだ。最初に頭に浮かんだのが一週間家の書斎が立ち入り禁止になることだった。それは一日のほとんどを本を読むことに時間をさく朝日にとってはなによりも辛い罰だ。
家に置いている本は歴史に関する書物が多い。それは図書館や書店では目にかかれないものだ。朝日は時間を忘れて歴史に関する書物を読み耽ることを日常としている。深い知識の底で様々な思想、人生観、感情など、それらは様々な輝きに満ちた色になり希望を連想させる。それらは人がそれぞれ思い描く世界そのものである。その断片に触れるだけで魂を激しく燃やし生きた証を刻もうとする刹那が強烈に押し寄せてくる。だが、相反する世界に衝突した時やその世界の中で作られた遺物が創造主の思想からかけ離れた形で使われる時にそれは悪に反転してしまう。朝日は絶対的な悪がない歴史はどんな物語よりも心が揺さぶられて考えさせられる至高の書物であると考えている。他のどんなものよりも本に対して傾注している彼にとっては本を読む日々はエラを使って生きる魚そのもであり、その行為をしないと言うことは生きる上での必然的な行為の仕方を忘れ生きようともがく哀れな行為そのものだ。
頭を冷静にさせて上手い言い逃れを考えたかったが差し迫る最悪な未来が彼を追い込み彼を冷静ではいられなくする。次第に頭は熱くなっていき思考が散漫としてしまい、いつからから日付がズレていたとか、本が読めなくなるとか、どんな言い訳をすべきかなどとまとまらない思考が溢れ出す。自分の思考に埋もれて違う世界にいってしまい永遠に同じことしか考えられず頭が混乱してくる。朝日は肩が沈むのを感じる。朝日は思考の渦から連れ戻され自分の肩に手を乗せているカインの今の空気に合わない聖母マリアを連想させる慈愛に満ちた顔が視界に飛び込んできた。
「お察しの通り、書斎は禁止だ」
カインはそう言い夕食を作るために台所に行った。今回が初めてではない。しかし夏休みという膨大に自分の時間がある日々を本なくしてどう自分が過ごすか考えられない。彼の思考は停止する。カインが出すいつもは大きく聞こえない食器が重なる音や包丁とまな板の擦れる生活音が家の中に響く。
「インターホンなってるぞ」
朝日はカインの声に反応してゆっくり顔を動かし台所にいる彼女の顔を見るがまだ頭は止まったままだ。カインの言葉を理解できず動かない表情筋でできた顔をただカインの方に向けるだけだ。生気のない眼を向けられたカインはいつもより酷く落ち込んでることがわかったがこの罰を取りやめる気など考えない。本が原因で学校の欠席が何度もあったからだけではない。一番の理由は本を読むより多くの人と関わって欲しい気持ちが強い。夏休みを利用して友人と遊んで人間関係を築く大切さを味わってもらいたと思っている。なので、欠席のことがなくても何かしらの理由を付けて少しの間だけ本から離れてもらうつもりでいた。しかし本を読むことが悪いことと彼女は考えてはいない。その行為は彼の人生を豊かにするものだと思っている。しかし何よりも重要なのは経験に元ずく知識は何にも代え難いものになると考えている。本で得る知識より深くもの事の本質を理解できるからである。本はどれだけ理解しようとしても筆者の想う本質的なことは理解できない。その感性はその人だけのものであり読者は読者の感性を通して読むことになるので外側だけの形作られただけの経験知識を触ることになる。それを理解するためには柔軟な感情が必要となる。結局、そのためにはたくさんの人と接し考え方の違いを認めて寄り添おうとすることが必要になるのだが…………。朝日は砂つぶほども理解を示さない。彼の世界は本だけで構成されている。他のもののことなんて目に入らないのでまさに犬に論語である。
「朝日、プリント届けにきたよ」
ドアの外から生活音に混じりかすかに声が聞こえてきた。
「ほら、早くでろ。古徳さんが来てるぞ」
玄関に指を指し朝日の止まった頭に聞こる大きな声で言った。鼓膜が突然激しく動き朝日の定まらかった目の焦点がカインに合わさる。彼女の手の動きを追いかけ意図する指示を朧げながらに理解した。静かに立ち上がり足を床に擦る重い足どりで玄関に着いたが何故玄関に行く指示をされたかわからない。
「朝日君、プリント届けにきたよ」
声に反応して扉を開けると体に纏まりつく湿った空気が優しく朝日を迎える。肌から伝わる生暖かい不快な空気が感覚神経を刺激させ体を熱くさせる。外部からの嫌な刺激に叩き起こされ朝日の思考は再び動き始める。開けた先にはクリアファイルを持つ同級生がけたたましい蝉の声がする中で立っていた。
「ダメだよ。学校行かないと」
あいかは片手でファイルを朝日に突き出す。朝日はプリントを手渡され申し訳なさそうな顔をいつもする。誰に頼まれたわけでもないのに彼女はいつもプリントと彼女なりの小言を届けに来る。朝日はプリントを下駄箱の上に置き、彼女の顔を伺いながら半歩ずつ歩き玄関から出て来る。
「いつもありがとうね」
「いや、俺が悪いから」
そしていつも家まで送る。いつから始めたかは朝日は忘れている。気がついたら習慣になっていた。日々にほんの少しだけ変わる日常をはなし、星の緯度が季節ごとに少しずつ変化し彼らの歩く道も少しずつ表情を豊かに変わっていく。春は人を見守るように歩道の横に植えられた桜の木々が色艶やかな優しい色をし、風が吹けば桜の木々が揺れて儚く妖艶な甘い匂いとともに散りその刹那刹那がいっときの幻想を見せてくれる。花びらが消える頃には生き物たちの季節になる。この季節だけは人間の出す音が霞んで聞こえて来る。蝉は七日間だけのブルースを所構わず高らかに歌い上げ、鳥たちは獲物をたくさん取っては仲間たちと多いに盛り上がる。毎日が彼らにとっての祭りになる。そして、彼らの音は次第に聞こえなくなり、霞んでいた人の出す音が目立ち始める。青々としていた木々の色は一変し次の実りの季節まで各々が準備をする。桜の木は枯葉を落とし自然の絨毯を作り上げる。歩む度になる枯葉は声をひそめながら痛そうになき、裸になった木々は寒そうでどこかもの寂しげなものを感じさせる。秋晴れの空が光をあまりにもまっすぐ通してしまいそれらがより一層鮮明に映し出される。やがて、温度が下がり生き物の動きが止まり始め世界に静寂の銀世界が訪れる。寒さにやられた足や手の先は動き方を忘れて身勝手にも痛みだけを訴え、鼻は赤くなり氷柱を作り始める。白くなった吐息は寒々とした世界で静かに融けていく。
 数年間、あいかと朝日は二人で少しずつ変わる日時と少しずつ変わる背丈と共にこの道を歩いて来ている。今日も何もない日常があり、何もない会話がある。
「また、歴史をよんでたの?」
「今、いいところなんだ」
あいかは木に止まって鳴ているツクツクボウシを眺める。朝日は目を輝かせ口を軽快に動かし始める。。一度、動いたらしばらくは止まらないので流れに身をまかせるしかない。
「それで今第三次世界大戦に入ったんだ。北朝鮮の問題が発端となり、社会主義国が何年もかけて練ってた作戦を開始させた。その大戦で初めて配備される強化人間が‥‥」
蝉の声は次第に大きくなり挙げ句の果てには朝日の声に対抗するようにせわしなく鳴く。あいかはうつむき足をとめる。だが朝日はそれに気づかず歩み続けている。口調は早くなり、歩みもはやくなる。気がつく頃には蝉は鳴くのをやめていた。
「操血者が現れた。それは‥‥‥」
二つの音に動かされていたあいかの鼓膜は聞き慣れた彼の声を鮮明に拾い集め留める。頭を上げて彼を見ようとしたがあいかはやめた。光と闇を曖昧にさせる焼け落ちる夕焼けの色が朝日の後ろ姿を酷くぼやけさせる。
「あいか?どうした?」
話し終えた朝日はあいかが隣にいないことに気づき後ろを振り返った。彼女は肉眼ではっきりと見えるが距離感が分からない。木々の影のせいなのか太陽が焼け落ちたせいなのか突然静寂になる空間は二人の間に暗い影を落としている。
「ありがとう、今日はここまでいいよ」
「けど、まだ、着いてないぞ」
彼女の影が横に揺れる。
「ううん、いいの。ありがとう」
朝日はあいかの元に走って着くとあいかの前髪を上げて顔を覗きこんだ。少し走っただけなのに彼の息は少し乱れている。
「また、体調悪くなったのか。ここ最近は大丈夫だったのにな」
あいかは一歩下がると彼の手から離れまた顔をうつ伏せにした。
「朝日…………」
彼女はすぐに千切れてしまいそうな細い声で言った。朝日はかすかにその声がきこえただけであったが実態のない気味の悪い重みのようなものを感じた。あいかの続けて出るであろう言葉を待とうとしたが朝日は空気の重みに耐えきれずに口を開く。
「—————そんなに体調が悪いのか」
彼女が顔をあげると木々がざわつき始め木陰が揺れ動く。そして、彼女は満面の笑みを浮かべる。
「大丈夫。今日はありがとうね。明後日は早いからお互いに早く帰ろう」
と声を高くしていった。朝日は明日の約束の意味がわからなかったが訊くのは不躾な気がしたので
「あ、あぁ」
と言葉を濁すことしかできなかった。
「明後日、駅まで待ってるね。じゃあね」
「あ、悪い。明後日に何時だっけ?」
彼女は笑顔のまま首を傾げて「それは今日の夜に連絡するっていったよ?」
と言った。
「あ、あーーーーー、そうだったな」
朝日は口を開けたまま目線を泳がしている。
「まぁ、それが朝日だから仕方ないか」
「反省はしてる」
「はい、受け取りました」
「————本当に送らなくていいのか?」
「うん」と言いながら頷き「明後日、楽しみにしてるね」と細く微笑んだ。朝日が「わかった」と返事をするとお互いに別れを告げた。






 女はマンションの305号室の扉を開けた。夏の太陽が真上に昇り蝉たちや鳥が騒ぎ立てる時間だが遮光カーテンが光を完全に遮り真夜中と変わらない暗さだ。廊下から流れる冷気が汗を冷やし思わず身震いする。ポケットから携帯を出してライトの明かりをつける。廊下には主に英語やロシア語で書かれた紙が散々と散らばり居間と廊下をつなぐ扉を突き破っている。つま先立ちで足音に注意を払いながら歩くが紙がかなり積まれているせいで秋の枯葉の上を歩くように足は深く沈みそれらを踏む音が響く。居間の扉に着くと強烈なインクの臭いが鼻につき思わずに袖を鼻にあてる。青い蛍光灯のような光が人影を作っているのが見える。女は携帯のライトを消して部屋の明かりをつける。背が小さいゴスロギ姿の白髪の女がパソコンと向き合っている。
「イヴァン。暗いところでパソコンをやると目が悪くなるよ」
くるぶしより高く積まれた紙はイヴァンの座っている椅子に近ずくほどに山の勾配を描くように高く積み重なっている。
「読むのにはたいして支障がないから大丈夫よ」
イヴァンはパソコンの液晶画面を目に映しながら気のない返事をした。女は小さなため息混じりに「体には気を使ってほしいの」と言ったがイヴァンのタイピング音が微かな彼女の声をかき消した。女はイヴァンのところへ行こうとした矢先に紙に足を取られて胴体から大きく前に転倒しそうになる。寸前のところで両手を前に出しなんとか大事を免れたが女の足元にあった紙は宙を舞い優雅にイヴァンの顔が映る液晶画面に落ちていった。
「ペロ、あなたはいつも落ち着きないわ」
イヴァンは無表情で起伏のない声で言った。それは彼女が怒っているからではない。ただイヴァンの人間性的にそうなっているだけだ。
「え?私が悪いの」
気が抜ける呆れた声を出していった。足元を見ながらゆっくり立ち上り手に吸い付いた紙を取る。そして、椅子の背もたれに手を置き中腰になって画面を覗きこんだ。
「何見てるの?」
イヴァンは耳元でつぶやくペロの顔を見ると画面にまた向きなおった。
「操血者の新たな論文について読ましてもらってるの」
「え、けど、確か…………」ペロは液晶から目を離して腰の高さより少し下のイヴァンの机に背を向け手を置いた。「操血者のことって関係者以外に見せることは禁止されているんだよね?」
「ええ、そうよ。けど、私たち科学者にそんなの関係ないわ」
「そうなんだ」
思わず彼女の顔を見る。そんな話があるのかと。なぜなら、操血者の話は世界規模で秘匿にしているものだからだ。
「よくある話よ。知的探究心に取り憑かれた人にあらゆる制約はなくなるから倫理観や道徳心なんてものがなくなるわ」イヴァンは物憂げなため息をついた。そして、兎も角と言うとペロを見上げた。「私は操血者の研究の権威と言われる者の二人のうちの一人。私に研究を見せたい人や私から話を聞きたい人なんて腐るほどいるわ。そこで面白い話を聞いたわ———————」イヴァンは何気なく視線を落とした先に信じられないのもを見かけて口を少し開く。そして、瞬きをせずにそれを見つめている。ペロはイヴァンが話すのを待っていたが一向に閉じない口に違和感を感じる。不摂生な生活がイヴァンの体をついに蝕んだのかと思いすぐに顔を覗き込んだ。イヴァンの視線はただ一点を見つめて顔を覗き込むペロに何も反応を示さない。
「イヴァン⁉︎大丈夫⁉︎」
胸に冷ややかな冷たい風がすり抜ける。ペロは不安に駆られ冷静さを欠きイヴァンの肩を掴み激しく何度も振る。
「うるさい」
揺さぶるのをやめないペロの手を軽く払いのけようとするが鷹が獲物を掴むように肩を力強く握った手を払いのけることができない。激しく揺れ動く視界の隅に目を向けるとペロの指先を中心として渦が巻かれるように服のシワがよっているのが見える。イヴァンは無理矢理取ることを諦めて二、三回軽くペロの手首を叩く。ペロは手首から伝わるイヴァンの手の感触に気づくとようやく動きを止めた。するとイヴァンはペロの目をまっすぐ見つめる。ペロはほそく微笑み安堵の息を漏らす。自ずと強く肩を握った手の力が抜けていく。
「大丈夫⁉︎目の動きが止まっていたよ。ずっと、言ってたのに無茶な生活するから。私のこと見えてる?目に異常はない⁈」
一息ついて間もなく捲くし立ててペロが言った。室内の気温が高くなり、エアコンの冷たい風が室内で一番温度の高いペロにあたる。腰まで伸びている赤い髪が揺れる。
「———————ペロ、また、成長した?」
「え?」
イヴァンの視線が俯瞰的な冷ややかな目でペロの胸とイヴァンの胸を何度も往復している。
「言わなくてもわかるでしょ」イヴァンは椅子を引かずに急激に立ち上がると椅子が紙の段差にぶつかり紙の中へと倒れていった。「初めてあなたと会った時は私より確かに低かった。けど、成長したもの。身長ならまだわかるわ。私は世界的な平均身長よりしたのほうだもの」イヴァンはペロの乳房に人差し指を立て力強くおした。
「痛い、痛い」
痛みを訴えるペロに構わずさらに強く押すと口調もそれに比例して強くなる。「このプリンのようなやわらかさはなに?世界平均より上じゃない」イヴァンは口を小さく広げて「私は少ししたなだけなのに」と小さく呟くと続けて「すごく惨めに思えるわ」と力強く言った。突然イヴァンは気絶するように倒れた。ペロはすかさずイヴァンに抱きよる。イヴァンの体は驚くほど軽く、持ち前の整った顔と月白の髪が相まって精巧な等身大の西洋人形を抱えていると錯覚してしまいそうになる。
「イヴァン?」
イヴァンは瞼を少しだけ開けうつらな瞳をペロに向けた。
また、私、倒れてるのか。情けない。いつまで私は逃げるつもりだろうか。
「大丈夫。いつものだから」
「ほんと?」
子供のような潤んだ無邪気な瞳で言うペロにイヴァンは白い細い手で頭を傾けるくらい思っいきりペロの耳たぶを引っ張ろうとしたが掴むことしかできなかった。自分の不甲斐なさに腹をたてると同時に顔をすぐに隠したくて仕方がない。瞳をゆっくり閉じると「ほんと」と一言だけ言い眠っていった。
ペロはイヴァンを寝室に運ぶと紙が散乱した居間を掃除し始める。イヴァンの自己管理能力の低さは今に始まったことではない。初めて会った時から彼女は身も心も研究者だった。食には無頓着で携帯食が常食で整理整頓もしない。それなのにアナログな紙媒体の情報を好んで使うから部屋は散らかる一方だった。だが、以前の彼女ならここまで体を衰弱させてまで何かに没頭することなんて頻繁にはなかった。今掃除している部屋にペットボトルはあれども食べかすや食べた後の残骸が一切見当たらない。こんなことが常となったのは二人で行動するようになってからだ。いや、本当はもっと違うのかもしれない。いつからか。彼女がペロにあまり目を合わせないようになったは。確かではないが故に言葉にすることができない気味の悪い淀みが押し寄せてる気がする。少し会わなくなるだけで自ら絞め殺すように痩せこけていく姿が痛々しく思える。彼女が眠りにつく度にもう二度と目を覚まさないかもしれないと、ひょっとしたら彼女がそうあるとことを望んでいるかもしれないとかすかに感じてしまう。彼女が眠りについてから目を覚ますまでの間は気持ちが落ち着かない。何もしないで彼女をずっと待とうとしたら酷な時間に感じれて心臓にナイフが突き刺さったままのような抉られた痛みがペロを永遠と痛め続ける。なにかを考えないと、体を動かさないと…………………。掃除が終わるとペロは遮光カーテンに暗く閉ざされた光が入らない部屋から出ていった。



 エアコンが効きすぎた部屋の中から外に出ると夏の強い日差しをかなり強く感じる。商店街はドーム型の半透明の屋根が太陽の光を遮っているが暑いことには変わりない。熱気をふんだんに含んだ蒸れた空気は肌に纏まりつくように離れない。光が漏れてる通路では人が踊って見える蜃気楼がある。あまりの日差しの強さに頭をさすり赤い髪の色が変わるかなと本気で思った。帽子持って来た方が良かったかも。行き交う人たちは帽子を被っている人もいれば、日傘をさしている。すれ違う子共はみんな小さな魔法瓶の水筒を首から下げいる。肌が焼けて赤くなってる人やもう黒くなっている人もいる。視覚的にも体感的にも感じれる暑さに少しうんざりはしたが決して悪い気だけではない。すれ違う人の顔はみんな笑顔で陽気な雰囲気がある。熱風を乗せたこそばゆい風が通り過ぎる。初めて買い物をした時もこんな穏やかな風が吹いていた。
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