第14話 決戦①

文字数 1,993文字

 ジーンとエリオットは老婆から聞いた部屋の前に立っていた。エリオットがジーンの顔を伺うと、準備ができていることを頷いて知らせる。エリオットは意を決するように静かに息をひとつ吐くと、片手に銃を構えたまま、細心の注意を払いながらドアのノブに手をかけた。
 
 その頃、トライベッカのアパートへ向かったESUは階段で待機し、本部刑事がその階の住人が避難を終えるのを待っていた。本部刑事が完了の合図をESUに出し、ハロルド警部から突入の命令を受け、一団は待機していた階段から廊下へと進んだ。目当ての部屋の前に辿り着き、刑事とESUの隊員は目配せをすると、先頭に立つ隊員がノブに手を伸ばすと音もなく回し、ゆっくりとドアが開かれる。

「どうなってやがる」
 ヘイル警部が配信された映像に割って入ってきたエリオットの姿をモニターで確認していた。
「無線を飛ばせ!」
 警部はモニターを目にしたまま指示をする。モニターの中のエリオットは当然のことながら警部の声に反応することもなく、ミカへ駆け寄ると、ジーンに部屋の中に敵が潜んでいないか検索するように合図している。
「装備していないようです!」
「あの、馬鹿ども」
 警部は今すぐエリオットを小突いてやりたい衝動に、顔の前で拳を握った。
「人質、確認できず!」
 代わりにESUから現状を報告する無線が本部に送られてくる。ESUが確認できたのは、そのままの姿で住人がいなくなった部屋と、バスタブに遺棄されたラルフとオリヴィア、その他にギャレットの実験体にされた二名の遺体のみであった。

「警部補! 大丈夫ですか!」
 エリオットは磔にされたミカの拘束を解こうと手を伸ばすが、頭に貼り付けられた電極と腕に留置された点滴の針を見て躊躇った。そのタイミングでミカが小さく震える。エリオットは爆弾でも目の前にしたかのように後退り、ミカの頭から伸びている配線を目で追った。そこにはエリオットが想像していたよりも遥かに小ぶりなドリームダイバーがあり、連結されたもうひとつの装置から配線が背を向けて置かれたリクライニングチェアへと伸びている。
 そこにはすでにジーンが立ち尽くしており、エリオットはジーンに近づいた。
「おい! 母親はいなかったのか」
「ええ」
 ジーンは椅子に目を落としながら短く答えた。エリオットがジーンに近寄り、椅子に座っている人物の顔を確認する。
「ギャレット……! まさか、本当に復活しているとは」
 背もたれの倒された椅子に、眠った様子のギャレットが横たわっていた。ギャレットの頭にも電極が貼られており、その先にある装置はミカのものと繋がっている。ドリームダイバーを介して、ミカとギャレットが繋がっていることが容易に想像できた。エリオットはジャケットから携帯電話を取り出す。
「すぐに応援を呼ぶ。それからドクにも見てもらわないと、下手に触って……」
 エリオットはミカの様子を気にしながら携帯電話の操作していた。反応を伺うようにジーンを見ると、ジーンがグロックを構え、銃口をギャレットに向けた。
「おい! おい! おい! 何してる!」
 エリオットが慌ててジーンに駆け寄ろうとすると、ジーンがエリオットを睨みつけた。
「近寄らないで! 邪魔するなら、いくらあなたでも容赦しないわ」
 エリオットは足にブレーキをかけるように止まると、容疑者であるはずのギャレットを人質に取られているかのように、自然と右手に拳銃、左手に携帯電話を持ったまま腕を広げ、攻撃の意思がないことを示す。
「一体、何を考えている! 警部補の様子がおかしいんだ。きっと何か薬のようなものを投与されてる。それなのに、繋がってるこいつを殺してみろ、警部補がどうなるか」
「関係ない、私はこいつを殺さなきゃならないのよ」
「馬鹿言うな!」
 すると、エリオットの手の中で携帯電話が震えだす。エリオットが横目にディスプレイを確認するとニューヨーク市警の番号。きっとビデオカメラを介して自分とジーンの到着を確認したヘイル警部からだとエリオットは察した。
「お前と遊んでる暇はないんだ! 早く銃をおろせ!」
 焦りを募らすエリオットは構わずに大声で叫んだ。
「いやよ! こいつを殺すことが私の人生の目標なの!」
 なおも銃口をギャレットに向けたままのジーンにエリオットは言った。
「なぜなんだ、わけを話せ」
 鬼気迫るジーンのただならぬ様子に、エリオットはその理由を聞かなければならないと思った。ジーンは息を荒くしエリオットを睨んでいる。話すべきか思いあぐねて苛立つように奥歯を噛むと、口を開いた。
「私の名前はジーン・ジェンセン・ローガン。リック・ローガンの妹だからよ!」
 突きつけられた驚愕の事実に、エリオットは開いた口から言葉を発せない。その様子を見て、ジーンは銃口の先にあるギャレットへと視線を落とした。
「私はこいつを殺すために警察官になったの」
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