第4話 スタグル

文字数 1,077文字

 眉間にシワを寄せながら、ナホはスマホを覗き込んでいた。
「何見てるの?」そう言いながらユミも一緒に覗き込む。
 そこには料理の写真がたくさん並んでいた。
「何か食べたいのがあるの?」とユミは聞いた。
「全部食べたい...」ため息をついてナホは言った。
「全部?」
「この写真は去年ユミと一緒に食べたやつばっかりだよ」
 ユミはすぐにピンときた。
「スタグルか!」
「そう、いっぱい食べたよね」ナホは笑顔で応えた。
「カレーとかハンバーガーとか、ステーキもあったよね」
「あるある、いっぱい出て来る。豆乳ドーナツとかソフトクリームとか」
 ナホはスマホの画面をスクロールし続ける。
「アウェイも行ったよね、3回かな?」
「そう!」と言ってナホは指を慌ただしく動かす。
「最初は岐阜だっけ?」とユミも一緒にスマホを覗き込んだ。
「高山ラーメン、飛騨牛コロッケ」と言うナホに、
「おお、食べたね、美味しかったね」とユミが応える。
「牛ホホ肉丼、もちもちポテト」
「ああ、思い出すー、よだれが出そうー」
 ユミは頬を押さえながら顔がとろけるのを防いでいる。
「長崎も行ったねー、ちゃんぽんに皿うどん」
「食べたねー、本場だよー」
「角煮まんじゅう」
「うひゃあぁ、とろけるぅ〜」
 ユミの目はとろけていた。
「写真を見れば何を食べたかっていうのは思い出すんだけど、試合の内容とか結果ってあんまり思い出さないよね」
 ナホはスマホから目を離して言った。
「試合は観てるんだけどね、食べるのがメインだからかな。でも観に行ったアウェイは勝ってないのは覚えてる」
 自信に満ちた力強い声で、ユミは言った。
「そうね、試合後に祝勝会をしたこと無いもんね」
「特に最後の柏は...」
「もう、それは触れないで...」
 二人の間にしばらくの静寂が訪れた。
「今年はどうなるかなぁ」ナホは言った。
「アウェイ行けるかな、松本とか磐田とか」
「あと、北九州と群馬。どこか行けたらいいなぁ」
 アルバイトの収入にだけに頼る学生には、なかなか厳しい問題である。
「ホームが変わるのも楽しみだけどね」ナホは言った。
「西京極では、隣で女子プロ野球やってたり体育館でBリーグがあったときは、その分スタグルの種類が増えて楽しかったよね」
「試合時間が重なっていないときは、観に行ったりもしたしね」
「応援の雰囲気も違うから面白いよね」
「今年はどうなるかなぁ、試合はピッチが近くなる分、迫力はあるよね」
「でもメインはスタグルでしょ」ユミは笑って言った。
「楽しみだね」ナホも笑った。
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