第1話

文字数 871文字

 新型コロナウイルス感染に関する報道で、作業着姿の小池百合子東京都知事が登場する機会が増えた。働いている雰囲気が伝わり、私は彼女の作業着姿には好感を持っている。
 作業着は丈夫でポケットが多く、小物の収納には便利だ。その分、ファッション性には欠ける。
 夕診の外来をしていて、仕事の途中で作業着のままで受診する患者さんがいる。ポケットには、それぞれ仕事に必要な事務用品や小物、診察券などが無駄なく整理整頓されて入っていて、美しく見える。特に左上腕外側に付いているペン刺しは逸品だと思う。着ている時には折れ曲がる可能性のない上腕に、利き腕側から取りやすい位置にあるポケットは、合理的で見るからに使いやすそうだ。
 作業着を好む人は、形式や美しさより合理性や機能性を好むようだ。もう退職されたが、山形県新庄市にある某病院の頑固一徹の事務長も院内、院外を問わず作業着を愛用していた。その事務長に面会に来た業者が、作業着姿の事務長に「あの~、事務長に取り次いで欲しいのですが…」と名刺を差し出していた。
 東京の新木場にある会社の経理課に勤務している某女性職員も作業着のファンだった。東京丸の内の都市銀行に社用で出掛ける時も作業着で、駐車場の警備員に「はい、工事関係者はあっちへ行って下さい。」と工事現場に誘導された。後になって銀行の顧客だと分かってもらえたそうだ。
 合理性や機能性を追求し、TPO(時・場所・場合に応じた服装などの使い分け)からの微妙なずれは許容範囲で余り気にしない。私の知る範囲では、作業着を愛用する人には個性的な人が多い。

 さて写真は、2020年の5月に羽越本線の西袋(にしぶくろ)で撮影した上り特急「いなほ」と鳥海山の水鏡である。

 最初、特急の背後に鳥海山がある構図だった。ところが手前の水を張った田んぼに映る逆さ鳥海山が綺麗だったので、背景の鳥海山を(はぶ)いた。いわゆる「水鏡」の下半分の構図である。
 世の中、とことん合理性を追い求め、機能一辺倒になり過ぎるのも息が詰まる。鳥海山を逆さまに撮る無駄もあってもいいと思う。
 んだんだ!
(2021年5月)
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