映画『フォード vs フェラーリ』

文字数 1,389文字

譬え話だが、巨人が異国のバッタを倒すためには自国の蟻の力を借りなければならなかった……映画『フォードvsフェラーリ』はそんな話。

噂どおりクリスチャン・べールの演技がすごい。彼が演じたケン・マイルズもあの世で満足しているのでは?
二人の男の物語にはケンの奥さん以外女性は殆ど出てこない。男臭いバディムービーではあるが、モーターファンや映画ファンはもちろん、そうでない人も理屈抜きで楽しめる。
アメリカ版『下町ロケット』という感想も聞かれるが、凄いのはこれがフィクションではなく実話に基づいていること。

10年前に出版されたAJベイムの著作の映画化だが、よく見ると原作の帯には「プラッド・ピット主演映画」とある。
ん?そんな映画あった?
実は製作途中で頓挫した。それがどのような経緯で今回の作品に繋がったかを調べてみるのも一興。

最初の企画ではクリスチャン・ベールがエンツォ・フェラーリ役にオファーされたという噂もあるが、カメレオン俳優の彼がケン・マイルズと同時に一人二役でフェラーリ役もやったらそれはそれで面白かったかもしれないが、一本の映画撮影中に体重を30kg以上増減させるのは流石の彼でも難しかったろう。


映画は省略の美学。
限られた時間の中で何を描き、何を省くか。

制作にあたっては、同じ原作を元に作られたドキュメンタリーフィルム『24時間戦争』(Amazon Prime Videoで見れます)も参考にしたはずだが、ドキュメンタリーなら1行のナレーションで済む部分もドラマにすると1シーンになる。ドラマとして展開させるために、史実は省略され、わかりやすく演出されているが、この映画はその描き方が上手い。
監督のジェームズ・マンゴールド。「マーヴェル・コミック」のウルヴァリンを主役にした『LOGAN/ローガン』の監督とは知っていたが、昔観た『17歳のカルテ』の監督と知って驚いた。そう言えばあの映画で「Chicken」と「Kitchen」が区別できない少女の役をやっていたブリタニー・マーフィーは、その後エミネムの『8 Mile』で売れっ子になって、『ラーメンガール』なんて映画にも主演していたけれど、32際の若さで急逝してしまった。(合掌)

のっけから脱線してしまった。クルマだからコースアウトか?

ル・マン24時間をはじめとするヨーロッパの耐久レースは、映画の舞台となる1960年代当時はマニュファクチャラーズ・チャンピオンシップと呼ばれていた。一方のF1はドライバーズ・チャンピオンシップ。
マニュファクチャーは日本語で工場制手工業。フォードが現れるまでのル・マンでは文字通り下町ロケットみたいな手工業的メーカーがしのぎを削っていた。
フェラーリはその中では一番大きな会社だったが、それでも当時世界で二番目(その前は一番だった)に巨大だった自動車会社フォードと比べたら巨人とバッタくらい違う。一方、この映画の主役であるアメリカのシェルビーはガレージに毛が生えた程度の、例えたら蟻のようなもの。その蟻のような男たちがどうやって巨人を動かしたか?


ここからは映画に描かれなかった部分も含めて、この歴史的な物語を追っていきたい。
当然映画に描かれた部分も明らかになるので、ネタバレになる部分も多い。
すでに映画をご覧になった方、ネタバレされても気にしないという方はどうぞ先をお読みください。但し長いです。

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