第2話

文字数 3,006文字

2日目と言うこともあってまだクラスの雰囲気に違和感を感じながら今日も1日が始まる。
それぞれの授業のほとんどは1年間の授業の説明や教材についてなどの確認が行われ、中には近くの席の人と自己紹介をしたりする授業もあった。

隣の席に座る野球部の進藤和馬くんとも少し仲良くなり、部活が引退に近付いていることなど野球の話をたくさんしてくれた。
進藤くんは見てすぐ野球部とわかるそれで、体つきも良く肌も焼けており当然の如く坊主頭だった。

近くの席という事もあって鮎坂さんと喋る事も多く、自己紹介の内容に沿ってお互いに趣味などの話をした。
鮎坂さんは正直話せば話すほど明るく元気な印象しかなく後のことはよくわからなかった。インドアと言いながら好きな場所は海だったり、友達が少ないと印象からは想像をつかない事を言ったりしていた。
中でも海への好きという想いは話していてもすごく伝わってきて、どうやら小さい頃に家族で行った海が綺麗で感動したらしい。

昼休みになり、母さんが作ってくれた弁当を机に広げて食べようとする。
別に友達がいないわけでもなければ、1人で食べたいわけでもなく何となく今日は自分の机で食べることにしただけだった。
「いつも1人で食べてるの?一緒に食べようよ!」
忘れていた、今目の前で声をかけてくれている鮎坂さんは普通に声をかけてくる人だった。
何となく友達がいない可哀想なやつだと思われた気がしてイラッとして「別にいつもじゃない」と不意に口に出してしまう。
僕なりの抵抗のつもりで放った言葉だったのに、鮎坂さんは気にせず「なら今日は一緒に食べよ!」と言って一緒に食べることが決まってしまう。

鮎坂さんはコンビニで買ったおにぎりやサラダを食べている。
僕がこんなこと言って良いのかわからないけど、鮎坂さんはきっと可愛いと周りから言われるくらいに容姿が整っている。もっと身体に気を遣った食事を摂るのかと思いつい「いつもコンビニなの?」と聞いてしまう。
「そうだよ?コンビニが一番美味しいから〜」
と自慢げに返ってきたのでそのまま「いつもは誰かと一緒に食べてるの?」と聞く。
「いや、2年生の途中くらいまではみんなで食べてたけど喧嘩してから1人なんだよねーほら、友達いないって言ったでしょ?」と笑い混じりに行った鮎坂さんを見ながら何気なく聞いてしまった事に反省をする。

「そうなんだ」と最初から興味がなかったかのように答え話を切り上げる。
それからは進藤くんが入っている野球部の話や受験の話をして昼休みを終えるチャイムが鳴る。
進藤くんは野球部のレギュラーで小さい頃からずっと野球をやっていてこの高校にも野球推薦で入ってきたらしい。
進学校で野球もそこそこ強い僕の高校でレギュラーでまさに文武両道といった感じだった。


それから僕たち3人は日を重ねるごとに仲良くなり、気付けばお昼を一緒に食べる事も当たり前になっていった。
進藤くんがお昼休み空いていれば3人で食べる事もあり、それ以外の日は変わらずそれぞれの机にお昼を広げて鮎坂さんと一緒に食べることが多かった。
相変わらず鮎川さんはコンビニのおにぎりを食べていて相変わらず嬉しそうによく喋ってくれる。

進藤くんの部活が忙しくて2人で食べる事が多く徐々に会話の中にあった不自然さもなくなり色々な話をする様になった。
鮎川さんのバイト先の話や、見たいと思っている映画があること、そんな話をしながら気が付けば一緒にいる事が当たり前になっていた。

確かに周りから見れば異様に映ったのかもしれない、明るく容姿の整った鮎坂さんと僕なんかが一緒にお昼を食べているのを見ていたクラスメイトの中で「2人が付き合っている」「海瀬は本当は女子」そんな噂や陰口が広まっていった。

薄々そんな事を言われているという事は気付いていたが、僕も鮎坂さんも気にせずお昼を食べているところにクラスの男子が何人か来て、

「お前らって付き合ってんの?」と聞いてきた。
「なわけないじゃんー!」といつもの様子で鮎坂さんが答えると「じゃあさ海瀬って本当は、、」とニヤけながら聞いてくる。

僕が少し戸惑いながらも違うよと言おうとするがそれより先に「やめてよただ仲良いだけだから」と少し怒った様子で鮎坂さんが答える。
男子が「すみませーん」と言って戻っていくのを見ながら、鮎坂さんが初めてこんな表情をしたことやこんな事で怒っている事に驚きを隠せずにいた。

「あ、ごめんね。なんか何も知らないのに陰で言われたりするのが嫌いなの。」
「勝手な解釈で楽しい事とか幸せな事を壊されたり、傷を抉られたりそういうのが許せないんだ。」
と言いながら机にあったジュースを飲む鮎坂さんを見てどこか安心しながら僕も自分のジュースを飲む。

家に帰ってから姉ちゃんに今日あった出来事を何気なく話すと、「で、明日からはどうするの?」と聞かれ最初は何のことを言っているのかわからなかったがすぐにその重大さに気付く。

今日の出来事で鮎坂さんが一緒にいることが嫌になったているかもしれない、なら明日からはお昼も別で食べた方が良いのではと思う僕がいた。
「まあしずくが決めな〜」と無責任に姉ちゃんは答えて自室へと戻ってしまう。

どうしようかと考えているとLINEの通知が鳴る。
「明日の昼一緒に勉強しね?」
二年生の時のクラスメイトからだった。
どうやら去年仲の良かった数人で定期考査の勉強をしようとしているらしい。

少し考えてから「いいよ」と返信をする。
鮎坂さんとの事も気になったが、テスト前という事もあって深く考えることなく一緒に勉強することにした。

いつも通りの昼休みに僕が席を立とうとすると「今日は食べないの?」と聞かれたため「友達と勉強するんだ」と答えると「えーそっかー」としょんぼりした様子で鮎坂さんは前を向く。
その日はそれから鮎坂さんとは特に話す事もなく、学校が終わった。

「どうだったー?」姉ちゃんに急に聞かれて戸惑った表情をすると「今日のお昼!」と聞かれてやっと何のことだか理解する。
「友達に誘われたから一緒に勉強した」当たり前のように答えると「あちゃー」と姉ちゃんが言う。

「明日から気まずくなるぞー」
と言われてどうしてかと聞くと
「鮎坂さん?はきっと気を遣われてるーとかしずくが嫌になったーとか色々考えると思うなー」
と言われてまたも事の重大さに気付く。

「勝手な解釈で、、、」
鮎坂さんが言っていた事を思い出す。もしかしたら鮎坂さんは僕が自分から離れていったと思うかもしれない。
そう思った途端に今日お昼を一緒に食べなかった事を後悔していた。

僕は何か言わなきゃと思いながらスマホを手に取り、鮎坂さんとのトークを開く。
LINEで謝ろうか、理由を伝えようかと色々考えたが

「明日は一緒にお昼食べよ」
きっとこれが一番良いと思い送信をした。

すぐに通知が来て
「もちろん!!!!!!!」
といつも以上に「!」が多い事に少しの笑いと安心で胸がいっぱいになる。

次の日学校に行くと僕の顔を見るなり、「おっはよーう」と上機嫌で鮎坂さんが声をかけてくれる。
「てっきり嫌われたのかと思ったよ〜」
と鮎坂さんが言ったのを聞いて、さすが姉ちゃんと心の中で姉ちゃんに感謝を伝えた。

「いや、本当にたまたま誘われて勉強してた。色々考えさせてちゃってたらごめん。」
そう伝えるとニヤニヤとした表情だけが返ってきた。
いつも通りの1日が進み、いつも通りのお昼の時間を迎える。
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