第1話

文字数 949文字

 私は酒が大好きで、塩を肴に酒を飲むのが一番美味しいと思う。実はこの飲み方は戦国時代から登場していたらしい。
 その理由の一つに、日本酒は味を構成する「甘味、酸味、苦味、旨味、塩味」の5種類のうち、塩味を除く4種類で構成されているため、塩を肴にすると五味全てがそろうからだと言われている。また塩には甘味や旨味を引き立てるという役割もあるのだそうだ。
 塩を肴に酒を飲むと言っても、私の場合、塩をガバガバと豪快に舐めるのではない。升酒の升の縁に塩を盛って酒と一緒に飲むのでもない。「これは何の味か?」というクイズで、「あっ、塩だ」とやっと分かるくらいの少量の塩を(つま)んで口に含む。ほんのりと塩の味が香りのように口に残っているうちに酒を飲むのだ。すると酒が甘くなる。地元の淡麗辛口の酒であっても、甘く(まろ)やかになる。いくらでも飲める…。飲み過ぎる…。
 世界を見渡すと、塩と酒の相性が良いのは日本酒だけではない。カクテルでは「スノースタイル」という飲み方があり、ソルティドッグやマルガリータはグラスの縁に付いている塩と一緒に飲む。またメキシコのテキーラは、ライムを口へ絞りながら楽しみ、食塩を舐めてショットグラスで流し込む。私も飲んだことがあるが、確かに甘味は感じるが塩で引き出される旨味は日本酒には到底及ばない。
 困ったことがある。私は医療従事者という立場上、酒の話はし難いのだ。まして食生活の改善で「減塩しましょう!」という流れの中で、塩を舐めて酒を飲むなどとんでもないことで、はなはだ肩身が狭い。
 酒をこよなく愛した作家山口瞳の「体にわるい」から引用させて頂く。「酒をやめたら、もしかしたら健康になるかもしれない。長生きするかもしれない。しかし、それはもうひとつの健康を損なってしまうのだと思わないわけにはいかない。」
 「塩を肴に」は、酒をさらに美味しく飲むためのこだわりと理解して頂けると幸いである。

 さて写真は、2020年4月に陸羽西線の狩川で撮影した桜と気動車である。

 満開の桜もさることながら、架線のない線路で気動車の排気口から立ち上がる淡い紫煙。これこそがディーゼルの唸りを感じさせる気動車ファンにはたまらないこだわりなのだ。
 こだわりにはそれぞれ訳があって面白い。
 んだんだ!
(2021年3月)
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