第1話

文字数 951文字

 【只者(ただもの)】普通の人。尋常(じんじょう)の人。のことで、多くは打消しの語を伴って用いる。例「あの不敵な面構(つらがま)えは―ではない」(goo 国語辞書から引用)

 どこにでも「只者ではない」人はいる。山形県庄内にもいたので紹介する。

 新型コロナウイルス感染症の経験が浅く、また検査体制も今ほど十分でなかった感染拡大第1波の頃、山形県では全国に先駆けて延べ1,000人以上の県の職員を動員して、JR山形駅、庄内空港、高速道路の県境のパーキングエリアで利用者全員の体温測定をしていた。
 それは医療機関でも同様だった。今は当院を受診する発熱者は、独立した建物の「発熱外来」で新型コロナウイルス感染の検査を受けてから院内に入る。しかし第1波の頃は、問診と体温チェックで感染疑いの患者を選別し、保健所の指示で行政検査としてPCR検査に回していた。2020年4~5月には患者、職員、出入りの業者を含め来院者全員の体温測定をした。
 当時、サーモカメラを用いた非接触型体温計は全国的に品薄で、特に東北地方は在庫ゼロ、入庫半年待ちの状態だった。仕方なく病院の出入り口を1ヵ所に絞り、職員が交代で非接触型体温計(←前額(ぜんがく)などの皮膚に当てて約1秒でピッ!と鳴る温度計)を用いて一人一人の検温を行った。混雑する時は検温の行列ができた。最初は混乱したが、慣れてくると皆、協力的で、「はいはい」と自分からおでこを出してくれた。
 ある日の昼前、病院の玄関に乗り付けた軽自動車の助手席から、帽子をかぶってマスクをした腰の曲がったお爺さんが、杖を突いてヨロヨロと病院に入って来た。
 担当職員がそのお爺さんのおでこで体温を測ろうとした。
 「ウッ!」
 担当職員に緊張が走った。
 そのおでこには「冷えピタシート*」が貼ってあった。
 (ん~、この患者さんは只者ではない!!)
*貼って熱をとる冷却シート

 さて写真は2020年5月、東海道線戸塚で撮影した上り貨物列車である。

 新型コロナウイルス感染拡大で撮り鉄の被写体にも変化があった。それは機関車の運転士もマスクをするようになったことである。機関車の運転席では感染の機会はなさそうであるが、安全運行の遂行(すいこう)と感染防御の姿勢には共通するものがあるのかも知れない。

 んだんだ!
(2020年7月)*(2021年12月 一部筆を加えた)
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