第1話 ひいおじいさん

文字数 1,905文字

仕事をさぼって公園でボーっとする。

よそで戦争があるなんて、信じられないなあ、と思ったその時、

声が聞こえてきた……

おい、貴様。

お前だよ。

話聞けって。

えっ?

あ、僕のことですか?

すみません。気付きませんでした。

まあ、良い。

ところで貴様、日本男児であるよな?

(ああ、なんか、めんどくさそうなのにつかまったかな……)


ああ、そりゃあそうですけど、何か?

なんだ、その態度は!

なっとらん!!


まあ、仕方ないのかな。

ところで、貴様。

今、この世界の動きをみて、千載一遇の機会だと思わんか?

(ああ。もうホント、厄介だぞ、これ)


世界の動き、ですか?

戦争が始まったことですか?

それとも環境問題のことですか?

おお、ちょっとは考えておるようだな。感心、感心。


そうだ、その戦争だよ。

我が日本にとって、またとない好機である。

すみません……

こんな時に何おっしゃっているんでしょうか?


不謹慎ではないですか?

馬鹿モン!


ロシアだろ。

我々が打ち破っても、まだ大国のままだという。

(我々が打ち破る? 日露戦争のことか?)


はあ、それで、何をおっしゃりたいのでしょうか?

我々が手に入れたかったものが、目の前に出てきただろうが!


分からんのか!?

僕ははやく戦争が終わることを望んでいます。

それ以上に何があるというのでしょう?

早く終わる、か。


そりゃあ早く終わらせたいよな、ロシアも。


でも貴様、我が国も同じように短期決戦のつもりで世界に挑んだことがあるは知っているのか?

世界に挑戦、ですか?


えっ、まさか真珠湾……

お!


少しは勉強しているようだな。感心だ。

それで結局、世界の流れには勝てなかった。


過去にこだわり過ぎて縮こまる必要はないが、

日本人は、今のロシアを批判するだけではいけないだろ。


はあ。。。



でもその話と好機っていうのは……

いいか、日本が大国になるのに必要なものの一つは資源だ。

今、ロシアは西側に集中している。


反対側はがら空きなんだよ。

そこには何があるか分かるか?


日本や中国があります。
違う!


ロシアの中に何があるか、だ。

つまり日本のすぐそばに何がある?

北方領土ですか?

あれはロシアの中、と言ってはいけませんよ。

惜しい。それもいい答えだが。


小生が言いたいのは、もう少し北にある。

なんでしょう?


あー、あの細長い島……

サハリンでしょうか?

それだっ!


小生らは樺太と呼んでおったが、あそこは重要な島だぞ。

(「樺太と呼んでおった」って、この人何者?)


えーっと……

そんなことも知らんのか!


小生がそっちにいたころはまだなかったが、今や石油・天然ガスの産地だろ?


令和の若者はそんなことも知らずに暮らしておるのか!?

(ああ、もうウザい)


それで、何だって言うんですか?

そろそろ解放してくださいよ。

あそこを今獲れば、日本は資源を自給できるじゃないか。


あの時もそれで蘭印を攻めたのだが、、、ううっ。

いや、それは……


それじゃあ、やってることがあっちと同じではないですか?


いや、過去への反省もない。

それに、今は炭化水素からのエネルギーは……

ほお、貴様、言い返せるようになってきたな。

いい根性だ。


しかし、現に資源を有さないからこそ、日本は強くなれない。

好機だと思わんのか?

そういう発想って、ヤバいですよ?
たわけが。


世界は弱肉強食。

これはあの戦勝国だって、反対しないんじゃないのか?

今なら……。

世界の支持を得られるとは、思えません。

うまく攻め込めても、ロクな結果にはならないのではないでしょうか?


そう、結局ポーツマスの……

おおおっ!


貴様、それをちゃんと知っておるのか。

若者が勉強しておるのは嬉しいぞ。


あいつらは日本に得な結果を最終形にはさせないだろうからな。

それが分かっていようがいまいが、

戦争の拡大を招くような真似はできません。

いや、してはいけませんよ。



特に、日本は……。

貴方だって、今の話からすると、分かっておられるのでは?
ははは。

結構できるな、貴様。


小生はな、

百年も経たないうちに、自分たちの過去をすっかり忘れているかに見える日本の若者に、

喝を入れるために戻ってきたのだ。


貴様に会って少しは安心したぞ。


(マジかよーっ)


それはそれは、ご丁寧に有り難うございます。

ご安心下さい。

過去のことを忘れていたり、無関係だと本気で言い張るのもいますが、

それは多数派ではないですよ。


ならば、よいがな。


では、またいつか会おう、若者。

(いや、遠慮したいぞ)


こちらこそ、よろしくお願いいたします。


(はやく帰ってくれー)

怪しい霊にとりつかれたと考えた結三郎は、心配になり相談のため寺に向かった。

そうでしたか……


それはもう、ひいおじい様、本気で降臨されましたね。





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