対話
文字数 1,905文字
よそで戦争があるなんて、信じられないなあ、と思ったその時、
声が聞こえてきた……
お前だよ。
話聞けって。
あ、僕のことですか?
すみません。気付きませんでした。
ところで貴様、日本男児であるよな?
ああ、そりゃあそうですけど、何か?
なっとらん!!
まあ、仕方ないのかな。
ところで、貴様。
今、この世界の動きをみて、千載一遇の機会だと思わんか?
世界の動き、ですか?
戦争が始まったことですか?
それとも環境問題のことですか?
そうだ、その戦争だよ。
我が日本にとって、またとない好機である。
こんな時に何おっしゃっているんでしょうか?
不謹慎ではないですか?
ロシアだろ。
我々が打ち破っても、まだ大国のままだという。
はあ、それで、何をおっしゃりたいのでしょうか?
分からんのか!?
それ以上に何があるというのでしょう?
そりゃあ早く終わらせたいよな、ロシアも。
でも貴様、我が国も同じように短期決戦のつもりで世界に挑んだことがあるは知っているのか?
えっ、まさか真珠湾……
少しは勉強しているようだな。感心だ。
それで結局、世界の流れには勝てなかった。
過去にこだわり過ぎて縮こまる必要はないが、
日本人は、今のロシアを批判するだけではいけないだろ。
でもその話と好機っていうのは……
今、ロシアは西側に集中している。
反対側はがら空きなんだよ。
そこには何があるか分かるか?
ロシアの中に何があるか、だ。
つまり日本のすぐそばに何がある?
あれはロシアの中、と言ってはいけませんよ。
小生が言いたいのは、もう少し北にある。
あー、あの細長い島……
サハリンでしょうか?
小生らは樺太と呼んでおったが、あそこは重要な島だぞ。
えーっと……
小生がそっちにいたころはまだなかったが、今や石油・天然ガスの産地だろ?
令和の若者はそんなことも知らずに暮らしておるのか!?
それで、何だって言うんですか?
そろそろ解放してくださいよ。
あの時もそれで蘭印を攻めたのだが、、、ううっ。
それじゃあ、やってることがあっちと同じではないですか?
いや、過去への反省もない。
それに、今は炭化水素からのエネルギーは……
いい根性だ。
しかし、現に資源を有さないからこそ、日本は強くなれない。
好機だと思わんのか?
世界は弱肉強食。
これはあの戦勝国だって、反対しないんじゃないのか?
今なら……。
うまく攻め込めても、ロクな結果にはならないのではないでしょうか?
そう、結局ポーツマスの……
貴様、それをちゃんと知っておるのか。
若者が勉強しておるのは嬉しいぞ。
あいつらは日本に得な結果を最終形にはさせないだろうからな。
戦争の拡大を招くような真似はできません。
いや、してはいけませんよ。
特に、日本は……。
結構できるな、貴様。
小生はな、
百年も経たないうちに、自分たちの過去をすっかり忘れているかに見える日本の若者に、
喝を入れるために戻ってきたのだ。
貴様に会って少しは安心したぞ。
それはそれは、ご丁寧に有り難うございます。
ご安心下さい。
過去のことを忘れていたり、無関係だと本気で言い張るのもいますが、
それは多数派ではないですよ。
では、またいつか会おう、若者。
こちらこそ、よろしくお願いいたします。
(はやく帰ってくれー)
そうでしたか……
しっかり手を合わせ、間違いは起こしません、と伝えましょう。
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