第1話

文字数 834文字

 新型コロナウイルス感染対策で、焼肉屋もテーブル席が一つおきになっていた。そこに30歳代の若い夫婦が焼肉を食べていた。
 「今日ね、病院から連絡があって行ってきた。お祖母ちゃんじゃ駄目だからお孫さんに来てもらえだってさ。私、キーパーソンなんだって。」
 どうやら病気の説明があったらしい。
 「悪性腫瘍でかなり進行していて手術しても取り切れないんだって。だから手術はしないで苦しまないような治療をするって。」
 別に聞き耳を立てた訳ではないが、医療関係者である私の耳に同業に関する話は自然に耳に入ってきてしまう。
 「毎年検査は受けていたのに変だな。」
 孫娘の旦那さんは経過と病院に不信感を持ったらしい。
 「別に他の病院にセカンド・オピニオンに行ってもいいって。商売上手な病院は『できるだけやってみましょう』と手術するかも知れない。同じような状態で手術して7年長生きした例はあるんだって…。」
 どうやらお祖父さんか誰かが、癌なのだろう。それにしても焼肉屋で焼肉を食べながら話すには話が重過ぎる。旦那さんはしばらく思案して、
 「そうか、12歳で手術してうまく7年長生きして19歳か…。」
 ん?! 何か変だぞ。あっ!ペットの動物病院の話か…と、気が付いた。焼肉を焼くジュウジュウという音と立ち込める煙の中で、何故かホッとした。
 人の命とペットの命、どちらも命には変わりはないが、やはり人の命は重みが違うと改めて思った。

 さて写真は、(したた)り落ちる油に火が付いた焼肉のカルビだ。

 ここ山形県庄内地方は、新鮮な海の幸もさることながら、肉も美味だ。自分は焼肉も大好きで、明るい炎に包まれたカルビを撮るのは意外に難しい。明るい炎に露出が合うと相対的にカルビが暗くなってしまう。逆にカルビに露出を合わせると炎が明るすぎて白く飛んでしまう。
 まあ、そんなことはどうでもいいから、花より団子、写真より焼肉…。
 焼肉を食べる時にする話は、元気が出る景気のいい話の方がいい。
 んだんだ!
(2020年8月)
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