第1話

文字数 1,299文字

真夏の残酷物語

暑い 暑い 暑い 
どこまで行っても暑い
避暑地に逃げても暑い
この狂ったような暑さを
避けられるところなんぞ
どこにもないんじゃないか
今年の夏の暑さはちょっとヤバイ

酷暑 危険な暑さなんてもんじゃなくて
狂気のような暑さ 凶器のような暑さだ
こんな暑さの中 わざわざ家族旅行に出かけ
少しは 涼し気なところかと思ったら
自分の家があるところよりもっと暑くて 
外に出たら それこそ蒸し殺されるような
暑さなので早々に宿に戻って冷房全開にして
温泉に浸かって 後は何もやることがなく
家族揃って蒲団の上でゴロゴロしているだけ
いったい 何のためにこんなところまで来たのか
おまけに 少し前に風邪をひいたらしく
もの凄い咳が出てきて旅行中に風邪のピークを迎え
喉がやられて本当に声すら出なくなった
それでも 数年ぶりの家族旅行なので
何としても無事敢行しなければならず これでは
まるで難行苦行するためにやって来たようなものだ

ほうほうのていでようやく家に帰って
ドアを開けてみると家中 何とも言えない
湿った熱風に支配されていて その空気を
追い出すまで本当に汗だくになって闘った
家全体に極度に高温で湿った空気が堆積していたので
頼みのエアコンがまったく効かないのだ
旅でさんざん疲労とストレスを貯め込んで
ようやく家に帰ってくると こんどは
ダメ押しされるようにまた暑さに叩きのめされた

昨夜からエアコンの具合がいよいよ悪くなって
エアコン本体から水が垂れて下のサイドボードに
置いてあった写真立てやメモ帳などを濡らした
仕方がないので紙おむつを切ってエアコンの水が
漏れてくる辺りにガムテープで貼り付けて
さらに吹き出し口からも垂れてくるので
でかいポリバケツをサイドボードの上にでんと供えた

この凶悪な暑さのなか エアコンが故障するというのは
灼熱の砂漠のど真ん中ででたった一つの水筒を失い
コンパスを失うということに等しいのではないか
修理の電話をかけても誰も助けに来てくれないであろう
ことは容易に想像がつく どこもかしこも
この暑さのためにエアコンは故障しているに違いない

この暑さではエアコンの有無は命にかかわる
もう10年も使っている故障しかけたエアコンに
自身や家族の命を預けなければならないとは
何という真夏の残酷物語だろうか


ファンレターさまの紹介

 毎日が暑さの我慢物語

日本の夏は本当に過酷ですね。関東では毎年10月上旬位までは暑い日が続いているように感じます。昔も暑かったけれども、クーラーなしでも何とか凌いでいました。しかし近年では毎年驚異的な暑さを更新し、毎日が暑さの我慢大会、夏の浪漫ならぬ我慢物語を繰り広げています。久しぶりの家族旅行で涼しく過ごせるかと期待して、重い荷物と人混みの中を汗だくになりながら、ようやくたどり着いた先は、やはり灼熱の町でした…エアコンを最大級にかけても、ムワっと古びた宿の熱気はなかなか下がらず、哀れ旅人は蒲団に倒れ…残酷物語が目に浮かぶようです。逃げるように帰ってみれば、熱の籠った我が家のにおい…おまけに命綱のエアコンは水が滴り、ウンウン唸っているようで。本当にお疲れ様でした。どうぞお身体を大切になさって下さい。



ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み