第1話

文字数 1,221文字

 もうな、嫌になったんだよ。
 大きな会社と癒着している奴がいたり、中途半端な感染対策だったり。下手したら殺されたりもする。
 上がそんなんだけど、民衆もひどいもんだろ。金持ちは税金逃れる手段ばっかり考えてるし、庶民はネットにかかりきり。ああ言えば、こう言う。なんか、昔新興宗教のネタでそういうのがあったけど、ネットの普及とともに、今じゃ一億総クレーマーみたいなもんだよね。そんなんだから、陰湿なイジメは減らない。じゃあ、ってことで何かしてくれる人もいるんだけど、そんな甘やかしてるからさ、若者は……みたいなことになるんだろ? いや、最近の若者は……っていうのは大昔から言われて来たことだから、まあこっちが古くさくて廃れることになるのは分かってるんだけどね。

 だからね、俺、独立することにしたんだ。

 ん? いや、会社を辞めるとかそんな小さいことじゃない。この国から独立すんの!

 で、その要件みたいなのをさ、しっかり確保したい訳だ。
 住民の意思で独立できるはずなんだから、あの島の住民が望めばいいんだよ。俺の故郷の小さな島、親戚と東京から来た変わりもの一家の五世帯しかないからな。全員賛成に決まっている。出戻りの俺でも顔がきくんだよな。

 国家の三要素ってのがあるんだろ? 領土と人民は問題ないとして、主権をどうするか。まあ、五世帯の共和制だよね。元首は要らんね。いや、元皇族とか呼んできてもいいけど、今は止めとこう。

 自給自足は、十二海里の領海があればなんとかなるけどな、やっぱり貿易は必要だろう。島には娯楽がないから、それもな。あ、でもテレビは映らなくていいよ。もうあれはいい。インターネットや携帯はこの国に依存せざるを得ないけど、これはいずれ何とかしたいな。
 電力会社が勝手に設置して本土に供給している風力と潮力の発電所ね、あれをうちのものにして、電気はむしろ売る。そうするとあれを買収しておかないといけないか。そうか、甥っ子が作った会社に買わせよう。これが手始めか。田舎の島の資本家が、地域振興のために発電所を運営。いいいんじゃないか? 最初は飛びついて称賛する連中も、あとで驚くぞぉ。

 あとはやっぱり防衛や治安維持ということになるよな。港はあっても空港はないし、上から攻められたらひとたまりもない。でも自衛隊や警察に守ってもらう訳にはいかない。うーん、やっぱ赤い国にすり寄る? いや、絶対潰されるだろ、それは。あの戦勝国はメリットさえあれば支援してくれるのだろうけど、今はデメリットだよなあ。まあでも、戦争しません、と宣言している国が攻めてくるなんて、あるか? ないんじゃない? 

 え? お前、信用して打ち明けてんのに、なんでそんな顔すんの? お前もさんざん文句言ってただろ? この国はダメだ、ダメだって。おい、しっかりしろよ!


 俺は何者かに殴られた。気が付いた時には、この暗い部屋だった。頭がズキズキする。そうか、あいつ、密告……。

【了】
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