後半  会話

文字数 1,359文字

エレベーターを降りる俺たち
「えー右ですか左ですかどっちですか自転車」
まったくもう。
「あのね、お兄ちゃん。自転車なんかどうでもいいんだよ。俺は君と2人になりたかっただけ。
率直な話、横で見てて君相当たかられてるぞ。
この手の店、もしかして他に行ったことないんじゃないのか?
ここまで露骨にたかられるってなかなかないぞ。旅行客の歌舞伎町じゃあねえんだから」

聞けば、先々月の職場の飲み会の後、初めて行ったガールズバーがここで、すっかりりなちゃんにはまってしまったと言う。初めて1人で言った際には、ひと晩で15万使ったと言う。
おいおい。通貨が円でないことを祈るばかりだよ。

「確かにかわいいと思うし、人気もあるって言ってたよな店長も。あの子のあのやり方で通用してるって事は君みたいな者は他にあと30人は軽くいるぞ。あの子は20年後この街のレジェンドになってるかもしれない。けど、あの子はそこらの男に落とせるタマじゃねえよ。少なくともドリンクと延長を渋っているような男にはね」

翔「でも、かわいいんすもん…」

「そうだね。君の青春と時間とお金を賭ける、その価値がある思うなら、それは君の人生だから俺は何も言う気は無い。
ただ俺は君より20年ほど人生を長く生きてんだよ。
もし耳を傾けられる余裕があるなら、他の店にも行ったほうがいい。他にもっと君に優しくしてくれて、君をお金じゃなく、男として見てくれる女の子がこの街にはいるはずだよ。現に、俺にはそういうお店も女の子もいてくれるしね」

翔「じゃあなんで今日ここにきたんすか?」

「同じ場所にずっといると、人間も水も濁ってしまうでしょう?だからだよ。」

翔「かっこよ!でも…好きなんすよ」

「わかるよ。それでフラれてボロボロになるのもいいんじゃない?でも、この調子で君がやっていて、りなちゃんとデートできるのって1年に一度あるかないかだよ。今夜一発とか、付き合うとか、結婚するとか、そんな未来を描いてんなら君はバカだよ翔くん」

翔「確かに…俺もうすうす気付いてたのかもしんないっす」

「だよな。りなちゃん個人の意思か店長の指示か、まだわかんねえけど、どっちにしろ、この店は危ない。せっかく静岡まで出っ張ってんだから店なんていくらでもあるだろ?経験を積むことこそが、今君に大切なことじゃないかな」

翔「そうすよね!ありがとうございます、お兄さん今度2人で飲みましょうよ!えーと、携帯…」

「やだよ。俺だって暇じゃねえんだから。俺を待ってる女の子がいるのに、なんでお兄ちゃんと2人で酒飲まなきゃいけないんだよ。
ただね、会って隣に座った縁もあるし、お兄ちゃんはいいヤツだと思ったから、楽しく飲んでもらいたいなぁと思って、今呼び出してこう言ってるだけ。
思ったより長くなっちゃってごめんね。
店戻ったら、あのお兄さんの自転車、緑のサドルがめっちゃかっこよかったわって言えば、俺のチャリ見たことになるから。
後はうまく帰って、寝て起きて。自分がどうするか考えなさい。じゃあね。」

おせっかいが過ぎると2000文字なんてあっちゃう間に通り過ぎる。
あーあ。このお話も賞からこぼれたか。
でも、このお話の翔くんからは涙がこぼれていたとか、なんとか。

そして彼の甘酸っぱい思い出も
涙で甘じょっぱくなれば賞のテーマに合致するのにね。

ちゃんちゃん。
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