前半  描写

文字数 1,332文字

「あら珍しい、そんなこともあるのね、アンタも」
馴染みのスナックのママに笑われながら、俺は確かに珍しく、今よりも街の灯りが鮮やかな界隈へと足を伸ばしていた。

ガールズバー。たまには、自分の話が若い女の子にも通用するかどうか、渡り合えるかどうか試したくなるものだ。

初めて行ったその店のお客はまばら。この時間ならしょうがない。
接客もまあ、やはりプロの接客など求めるものではなく、ただただ若い子とわーわーキャーキャーやってれば嬉しいなと言う輩が通う店なんだろう。

少し離れた席では、24歳だと言うお兄ちゃんが必死に向かいのりなちゃんを口説いている。

「えーじゃあ、もう一杯いい?」

「もーう。仕方ないなあ、りなは。毎週毎週来てんだから、今度こそ飲み行ってよ2人で。」


この店に毎週か。難儀やな、このお兄ちゃん。
などとぼんやり見ていると店長の男性が声をかけてくる。
「お兄さん時間も時間なのでどうでしょう?りなちゃんのほうに行ってみませんか?」

え。どゆこと?あそこのお兄ちゃんもう帰るの?

「いや。3人でお話ししたら楽しいんじゃないかと思いまして。」

は?今ここにいる。この子は?

「実はもうおウチに返さないといけないんですよー」

その時点でどうなん?とは思ったが、店の方針ならば仕方がない。そういうことを平気で言える店なのだと、ニコニコと笑う優しいお兄ちゃんの了解を取って隣に座った。

隣に来るとさらによくわかる。お兄ちゃんはりなちゃんの虜。まあ確かにかわいいんだけど。

「おいりな、それ水だろ」
「そんなことないよー、水割りだよー」
「ホントー?笑」

俺「何の水割りかが問題なんじゃないの?」

「あ!そっか。りな、水の水割りだろお前」
「てへ。でもそんなところがかわいいんでしょう?」
「もーう、コイツひどいっすよねえ?」
ヘラヘラと笑うお兄ちゃん。

あらら、らららら。
水の水割り(つまり水)で千円か。このお兄ちゃんよっぽど稼いでんだな、そうは見えないだけで。

聞けばお兄ちゃん、隣の隣町からりなちゃんに会いたいが為に、週に2回や3回は車で通っていると言う。
帰りはお金惜しさに代行は呼ばず、車で寝て酔いを覚まして、明け方運転して帰っていると言う。
危なっかしいな今どき。

それも知っているりなちゃんがはやしたてる。
「ねぇねぇ翔くん、延長延長。お願いお願いもっといて。」
こういう時だけ声の甘さに拍車がかかるりなちゃん。

「しょーがないなあ」

恋は盲目。惚れた弱みで何でもあり。

りなちゃんは俺にも手を出して来た。
「お兄さん飲んでるの、りなもいただいていいですかあ?」

翔くんの隣でようそんなことが言えるな。俺も甘く見られたものよ。
「いやぁー、それは今夜キミが俺に何をしてくれたかによるんじゃない?そん時は俺が自分からいうから待っててね。それに君の大事なお客さんの水の水割りがまだ残ってるよ?」

ダメだこりゃ。
「というわけで、店長。今夜は帰りますわ。」

放っておけばいいんだろうが、この善良なお兄ちゃんにも気になる。

「じゃあねお兄ちゃん、ありがとね隣。あ、そうだ。俺さぁ、めちゃめちゃかっこいいチャリで来てんのさここに。1分で終わるからさ、ちょっと外まで見に来てくんない?」

「え!見たいす!りな、ちょっと行ってくるね!」

後半へ続く。
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