プロローグ

文字数 438文字

 
 今日の空は、冷たく重い灰色だった。
 十二月に入り、それまでの澄んだ秋空が濁って水分をたっぷり含んだ雲が多く生まれるようになった。冬が深くなる時に年末が来るのは、浮かれていた人間を押しつぶすような空で覆って、心理的に追い詰める効果を狙って古代の人々が決めたのかもしれない。
 腕時計を見ると時刻は午前七時。身支度を整えて王子北から高速に乗れば、二時間もかからずに目的の栃木の佐野に着く。
 荷物を入れたカバンを持ち、部屋を出て駐車場に向かう。中古で買ったパジェロミニに乗り込む。王子駅前を抜けて交差点から王子北の入り口に入る。首都高と外環から東北道に入る。北に進路を取るだけで、冷たく重い気配が強くなってくる気がする。同じように東京から東北方面へと向かう車たちは、普段と変わらぬ機械的な動きで自分もその中に居るが、車の中にいる自分の気持ちは、そのように無表情ではなかった。
 あの旗川の水は、依然と同じように流れているのだろうか。その事を呼び水にして、自分の過去を思い返してみた。
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