第3話

文字数 763文字

 翌日。新宿にある小さな雑居ビルの一階にある小さな編集プロダクションで電話が鳴った。

「はい、『月刊オカルティア編集部』ですぅ。あー、はいはい、平田さんはうちの契約ライターで……え……死んだ? あの、ちょっと待って下さい。編集長に代わります」

 そう言うと、青年は受話器を手で押さえながら、傍らにいた中年の男に声をかけた。

「編集長、なんか、警察から電話です。平田さんが亡くなったって。取材に向かう途中で」

 男は無言で受話器をひったくった。

「はい、お電話代わりました。……はい、昨日は●●市へ取材に行ってもらう予定でした。ええ、その途中の電車の中で? はぁ。わかりました」

 電話を切ると、男は立ち上がり、「身元確認に来いってさ」と青年に言い、ジャケットを手に取り、部屋を出て行った。

     ◇     ◇     ◇

 三十分後、警察の遺体安置所に、男の姿があった。傍らには担当刑事。

「電車の中ですか?」
「ええ、シートにもたれて、丁度居眠りしているように見えたんで、周りの人も気づかなくって。終着駅で、駅員が気づいたんですが、その時にはもう……」
「そうでしたか……」

 男は、安らかな顔で横たわる旧友に合掌した。

「検死の結果が出ないと何とも言えないんですが、亡くなる前後の行動にも、ご遺体にも不審な点はないので、まぁ、恐らく自然死ということになるかと……ただ、ですね」
「はい?」
「一点だけ、気になることがありまして」
「はぁ」
「これなんですが」

 刑事は、言いながら平田の遺品が並んだ台の上から携帯を摑んだ。

「亡くなられたのは、恐らく昨日の午前10時頃と思われるんですが、携帯にね、昨日の昼頃に撮影したと思われる写真があるんですよ」

 そう言って刑事が男に差し出した携帯には、写っているはずのない、美しい海の写真が収められていた。




(終わり)
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