第7話 祐樹

文字数 1,096文字

「あれ……?」
 目が覚めたら、おれは自分の部屋のベッドで寝ていた。西向きの窓からは、暮れかけた太陽の光が差し込んでいた。
「祐樹くん」
 顔を向けると、そこにはおれを見つめる玲がいた。泣いた後なのか、目が潤んでいて、目の縁も鼻の頭も真っ赤になっている。
 そんな顔を見たら……胸がキュン、と、音を立てた。
「だいじょうぶだった? けがとかしてない? ひどい目にあわされなかったか?」
 思わず起き上がる。不思議だ。あれだけぼこぼこにやられたはずなのに、痛みもない。

 ……夢、だったのか?

「ありがとう。祐樹くんが、あたしのこと守ってくれたんだよ」
 涙のたまった目でおれを見る。
「おれが……?」
 思い出そうとするけど頭の中がぼんやりして思い出せない。
「大好き」
 いきなり首筋に抱きついてきた。シャンプーの香りがした。たまらなくなって玲の体を抱きしめた。
「おれも、玲のことが大好きだ」
 すると、一瞬動きを止め、体を離して俺を正面から見つめた。ものすごく不安そうな顔をしていた。ためらいがちに口を開いた。
「もしも……」
「ん?」
「もしも、あたしが本当は人間じゃなかったら……どうする?」
 玲は大まじめだった。こっちが引いてしまうほどに。あまりに突然で、意味が分からなかった。
「人間じゃないって……」
「たとえば、宇宙人、とか」
「どうしたんだよ、いきなり」
「それでもあたしのこと、好き? ……好きでいてくれる?」
 必死に聞いてくる。
「おねがい、答えて」
 今にも泣きそうに、頬を小さく震わせていた。まるで、それが本当のことみたいに。目にたまった涙が今にもこぼれ落ちそうだ。
 なんでこんなこと聞くのかわからないけど、冗談で返してはいけない気がした。
「そうだなあ」
 おれは、玲の顔をのぞきこんだ。
「そしたらおれも、玲にとっては宇宙人だな」
「……え?」
 意外だ、という風に動きを止めた。驚いたみたいに俺を見つめる。それさえも、抱きしめてしまいたくなるほどかわいい。
「好きになってくれて、ありがとう」
「祐樹くん……」
 こらえていた涙がこぼれて頬を伝った。
「ありがとう」
「……なんで、ありがとう、なんて」
 戸惑った。戸惑ったけど……やっぱりそんな玲は、おれにはもったいないくらいの女の子だ。こらえきれなくなって、その細い体を今度は自分から抱きしめた。玲も、おれの体にその腕を回してきた。体温を感じる。おれの大好きなシャンプーの香り。
「大好き」
 体を離して見つめあう。
「おれも、玲のことが大好きだよ」
 玲の唇に軽く自分の唇を重ねたら、最後は照れたみたいに笑った。

                               おわり
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