ロディオ観戦

文字数 971文字

 「ホームシックに罹っている」とボードマン校長が気遣ってくれ、知り合いの日系人、ナガセさんを紹介してくれた。奥様は米国人で、ミセス・アンダーソンより、ちょっと若めの、ふくよかなご婦人。日曜日に自宅に伺うと、日本食品店から買ってきたという、インスタントラーメンを振舞ってくれた。ラーメンの粉汁を捨て、その代わりに、味噌をお湯に溶いた、ナガセさん特製の味噌ラーメン。名古屋生まれというナガセさんは、たぶん八丁味噌を溶かして作ったと思う。帰国してから、挑戦してみたが、ナガセさんの味には遠く及ばなかった。涙が出るほど、美味しかった格別な八丁味噌ラーメンを、あれから食べていない。
 ナガセさんご夫妻が、近間で開催しているというロディオ会場に連れて行ってくれた。すり鉢状の円形会場の上段の席で、本場のロディオを観戦した。広いとはいえない競技会場を、縦横無尽に駆け回る馬上のローンレンジャーは、迫力満点。競馬とはまた違った馬の魅力を感じる。
 幕間に「トキョウ・ジャパン」のアナウンス。確かに、東京、ジャパンと聞こえた。ナガセさんの奥さんが私に向かい、起立するようにゼスチャーする。立ち上がると、観衆から一斉に拍手。奥さんがロディオ会場の事務局に紹介を頼んだらしい。観衆を前に、手を振って、頭を下げての挨拶。天皇陛下にでもなった気分だ。旅は、思いもよらぬ体験をさせてくれる。大勢の観衆の目を引き付け、手を振っての挨拶は、一般人の身にとって、一生に一度の貴重な体験となった。奥さんの粋な計らいに、感謝してやまない。
 余談だが、つい最近、自らロディオをやった。田んぼからトラクタを畑に移動する時、スロープでスリップするので、レーバーで後方のロータリー(作業機)を上げた。その途端に、前輪が空中に上がった。この状態を称して、農家はロディオと呼ぶ。ロータリーがつっかえとなって、転倒を免れたが、飛行機もトラクタも操作を誤ると死につながることを、思い知らされた。
 帰りに売店で、バックスキン地の本格的な白いカーボイハットと、当たり馬券願掛け用(競馬観戦の応援グッズ)に鞭を土産に買った。日本に持ち帰った土産は、この2点と、ホノルル空港で買ったチョコレートだけだった。ナガセさんの実家がある名古屋に、お礼にお伺いしたのは、帰国してから10年も後のことになってしまった。
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