第1話 守銭奴と苺大福

文字数 1,365文字

わたしは、通称「アキナイ」小学校の時から学校で、商いをしていた守銭奴に会うために此処に来ている。その守銭奴に用があるのだ。

和菓子屋に入ると可愛い少女が店番をしていた。
目当ての人物の妹だ。高校生だったような。
守銭奴の妹なのに、目がギラギラしてなく、純粋な目をしていた。

うん、可愛らしい。

「いらしゃいませ」
「あきなりくんいますか?」
「お兄ちゃんですか。多分、2階に、お兄ちゃ~ん、メグミさんだよ」

可愛い妹は2階にいるであろう、アキナリに声を掛けた。
甘い声だ。例え兄が守銭奴だとしても、兄妹の絆は強いのだろう。

数分後、2階からアキナリが降りてきた。
完全に私服のだらけた格好だ。
ちゃんと見たのは七年ぶりだ。

「久しぶり」
わたしは愛想の良い表情を作った。
「・・・」
アキナリは七年ぶりの再会なのに、何の感動も示さなかった。
寝起きなのか、目がギラギラしてない。
寝起きはさすがに、守銭奴ではないらしい。

妹ちゃんの情報だと、小さな商社に内定が決まったらしい。
小学校から商いをやったいただけあって、商才は凄まじい。
アキナリは、じっとわたしを観察しながら、

「久しぶり、妹から常連だって聞いてたけど」
「うん、まあ」
「いつもありがとうございますって感じ」

アキナリはそう言うと、ぼーとわたしを見つめた。
中学の時の感覚に戻るかのように。

「それでね、ちょっとモモカの件で用が」
「モモカ、百合友の?」
「百合友ちゃうわ!ちょっと仲が良いだけ」

中学の修学旅行の時、モモカとのゆりゆりな禁断のシーンを、アキナリに見られたのを思い出した。

その禁断のシーンは守銭奴とは言え、中学生男子には衝撃的だったに違いない!
そして、その口止め料の額は、中学生女子のわたしたちにとって衝撃的だった!

修学旅行に舞い上がり、大胆になってしまったわたしたちのミスではあるが、結果、わたしたちは禁断のシーンを見られた上に、お年玉を全額巻き上げられた。

そう奴の守銭奴感は半端ない。

でも、その後、誰にも知られずモモカとのゆりゆり生活を楽しめたのは、奴の口止め料のオプションのお蔭だ。あのオプションは良かった。

モモカとのかけがえのない素敵な思い出が出来たし。

アキナリは意味深に笑うと、和菓子屋のカフェ風のフードスペースに誘った。
ちょっと前はなかったスペースだ。
わたし達が中学の頃は、古臭い和菓子屋だった。

「あっあの苺大福、持ってきて、俺の付けで」

アキナリは妹に告げた。
アキナリは守銭奴だけど、人に奢るのが好きだ。

基本、金は天下の回りモノなのだと言う。

お洒落な椅子に座るとすぐに、
「お待たせしました」
と妹が苺大福と緑茶を持ってきた。

妹は去り際、微笑みながら意味深に兄の肩に手を置いた。
兄はすぐに「違う!」と首を振った。

「何が違うんだよ!」と心の中でつっこんだ。

仲の良い兄妹を見ながらわたしは苺大福を食べ、緑茶を飲んだ。
妹が去ると兄は話し始めた。

「妹がさ、和菓子屋を手伝うようになってから、少しだけど繁盛し始めたんだ。
和菓子作りの才能があったんだよ。なんか味のレベルが違うって言うの?」

妹の自慢をするアキナリは嬉しそうだった。昔から仲の良い兄妹だった記憶はある。
そして和菓子の味は、確かにレベルが変わったのは事実だ。
わたしが美味しく食べたのを確認した後、彼は言った。

「で?モモカちゃんが、どうしたの?」


つづく



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登場人物紹介

メグミ。モモカの親友。

アキナイ。小学生の時から商いをしていた守銭奴。

モモカ。ちょっとアホな子。メグミの百合友。

モモセ。モモカが中学の時に好きだった男子。

ハルナ。アキナイの妹。

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