その三・「ざくろ」

文字数 1,882文字

 はいどうも。
 川端康成の『(てのひら)の小説』深読み企画(?)第三回です。今回は「ざくろ」です。
 戦時中……の話ですね。「戦争」という言葉は出てきませんが、文中の「出征(しゅっせい)」の言葉で分かります。
 ざっくりまとめると「仲の良い幼なじみの男女。男は兵士として戦地へ行かねばならぬ。遠く離れるその前に、男は想い人(幼なじみ)の女性に別れのあいさつに……」という話。このベースに小道具のざくろが絡む、切なくも美しい掌編です。
 ややもすると庭にあるざくろのことまで忘れてしまう、きみ子(ヒロイン)と母二人のさびしい暮らし。一晩木枯らしが吹いて、葉の落ちきった木になっている熟したざくろ。
 きみ子はざくろの実をひとつもいで、縁側に置いて二階にあがり、()(もの)を始めます。
『十時頃、啓吉の声が聞こえた。
(中略)
「きみ子、きみ子、啓ちゃんが来たよ。」
と、母が大声に呼んだ。』
 母は縁側にあったざくろを「おあがり」と啓吉に渡し、また階下からきみ子を呼びます。階下に降りたきみ子を見つめて、啓吉は「あっ。」とざくろを落とします。顔を見合わせて微笑する二人。
『微笑し合ったことに気がつくと、きみ子は(ほお)が熱くなった。啓吉も急に縁側から腰をあげて、
「きみちゃんも、体に気をつけてね。」
「啓吉さんこそ……。」
と、きみ子が言った時は、もう啓吉はきみ子に横を向けて、母にあいさつをしていた。』
 啓吉が出て行ったあと、母は「啓ちゃんもあわてものだねえ。勿体(もったい)ない、こんなおいしいざくろを……。」と縁側から(おそらく地面に)落ちたざくろを拾い、きみ子にさし出します。
「いやよ、きたない。」
(こば)みかけたきみ子は、ざくろに啓吉の噛みあとを見つけ、頬を熱くして受け取ります。
 その噛みあとのあるざくろに軽く歯をあてて、きみ子は、
『啓吉に知られないで、心いっぱいの別れ方をしたように思い、また、いつまでも啓吉を待っていられそうに思うのだった。
(中略)
 (ひざ)に持ったざくろに歯をあてることなど、もうきみ子には恐ろしいようだった。』
 という掌編です。
 実は文中に「幼なじみ」という言葉は出てきませんが、きみ子の母が「啓ちゃん」と呼び、啓吉もきみ子のことを「きみちゃん」ととてもくだけた呼び方してるので、おそらくガチで幼なじみだと思われます。
 そして今回自分が深読みしたいのは、もちろんきみ子と啓吉! ではなく、きみ子の母!
『母がよく父の残しものを食べていたのを、きみ子は思い出した。
 きみ子は切ない思いがこみあげて来た。泣きそうな幸福であった。
 母はただ勿体ないと思っただけで、今もただそれだけのことで、ざくろをきみ子にくれたのだろう。母はそういう暮しをして来たので、つい習わしが出たのだろう。』

・父は残しものをしていた=それほど食に困った暮らしはしていなかった。
・だいたい戦時中にも関わらず、家の庭のざくろ(食べ物)を忘れて暮らしているほどなので、父の亡くなった現在もさほど暮らしには困っていない。
・縁側から落ちたざくろを、きみ子は「いやよ、きたない。」と一度拒否している。
*しかし、『母はそういう暮しをして来たので』と作中に明記されている。

 ということから察するに、自分は「きみ子の母、幼少から少女時代に両親を亡くすか何かで不遇な生活をしていた説」を()したいです!
 そして若かりし父(けっこういい暮らししてたおぼっちゃん)と出逢い恋に落ち、子供(きみ子)を産み育てて、夫に死に別れた今でも倹約(けんやく)の心は忘れない母! という図式を考えたんですがどうでしょう!
 何だろう、「メインはそこじゃないだろ!」ってツッコまれるかな、この考え……。でも書き写してて思ったんです、きみ子の母()え~! って……。
 あと自分、母にこの話したら「出征する人にざくろって……何か実と粒の鮮烈(せんれつ)な赤色が『血』や『死』を暗示させてヤだな……」と言う意見。
 しかし「じゃあ何の果物が良いか?」と二人で考えてみたら、これがま~思いつかない。
 イチゴ? 小さすぎ。さくらんぼ? もっと小さすぎ。ビワは……食べると汁出すぎて問題外。スイカ……も無理だよな。マンゴー……ってこの時代に出回ってる訳ない! っていうか「庭で採れる果物」じゃなきゃダメじゃん!
 ということで、ざくろに代わる果物はついに見つからず。「噛みあとがさりげなく残っててもおかしくない、美しい果物」を吟味(ぎんみ)したんでしょうね、川端康成……。
 ……うん、全然エロくないな、今回。
 でもやっぱり深読み楽しい! 今度は何を深読みしようか! とかほとんど書いてる自分で楽しんじゃってる、このエッセイなのでした……。
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