第10話 占い師の見立て

文字数 1,218文字

 念のためプロの占い師に観てもらうことにした。

 デパート5階寝具売り場の奥で、土曜日だけ方位気学の占い師がテーブルを構えることを知っていた。
見た目60代前半の女性占い師、30分3,000円。

 待っている間、衝立(ついたて)の向こうで前のお客さんとの会話が聞こえてきた。
「今、あなたの運勢は冬なの。冬には冬に合った行動があるの。なのにあなたは夏の行動をしようとしている。無理があるのよ」
恋愛相談みたいだ。お客さんけっこう年食っているように見えるけど、現役なんだな。

 私の番になった。時間制限があるのだ。私は地図を広げ、要点を手早く伝えた。

「来年、ここからここに引っ越しします。五黄殺ですよね。最悪いつまでに入居すれば、五黄殺の影響を受けずに済みますか? それから夫はこっちから入ります、暗剣殺ですよね」

その占い師を枇杷(びわ)さん(仮名)とする。
枇杷さんは私と地図を交互に見て、何度か頷くと、私、夫、息子の誕生日を書くよう促した。

「できれば、1月31日に3人揃って入居が望ましいわね」
「1月は難しいかもしれない。2月ならいつが大丈夫な日ですか?」
「あなたと息子さんは、2月14日か23日ね。旦那さんは2月15日か24日」

一拍置いて枇杷さんは暦を見て、
「なんとか3月4日もギリギリ大丈夫かしら? うーん、でも、なるべく早いほうがいいに越したことはないのよ」
「じゃあ、1月31日か2月14日と15日が無難ですか」
「そうね」

「それから、なにをもって入居日となるんですか? 荷物を入れた日ですか? それとも寝始めた日? そこでなにか食べた日?」
枇杷さんは即答した。
「寝始めた日、煮炊きをするようになった日よ」
寝ればいいんだな。そしてティファールを使って、お茶でも飲めばいいだろう。

一応、入籍日も聞いてみた。
「2月6日がいいわね」
そして枇杷さんは、余った時間で私のことを語り出した。

「あなたと旦那さんは価値観が違うわね。あなたはね、7割くらいのところで『もうわかった』って早合点して切り捨てるのよ。バッサリ。そして、『次!』って。切り替えが早いのは時にはいいんだけど、もう少し考えること」

そんなようなことを言われた。
……はあ、と思った。そんなことを言われたのは初めてだった。
言われてみれば私は短絡思考だったかもしれない。物事が停滞して腐るのが嫌で、切り捨てることがあったように思う。
それからは、出した結論の先にもまだなにかが潜んでいるのかもしれないと、ちょっとは考えるようになった。


 工務店さんと次の打ち合わせの日、私は桃さんが困るのを承知でお願いした。
「バカなことをと思うかもしれないけど、星回りの関係で、1月31日に入居したいんだけど無理かな?」
桃さんははっきりと困惑していた。
「工程から1月31日は無理だと……」

「じゃあなんとか2月14日はどうだろう。外構は後回しで、見かけはどうでもいいから、とにかく寝られればいいんだけど」

 桃さんは困り顔のまま帰って行った。

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