作戦会議 in マモル

文字数 3,124文字

 精一杯考えます、と言ったものの、何をどうすればいいのか。まったく手がかりがない。ここは脳内探偵の力を借りるしかない。
「ねえ、ミニホー、相談に乗ってくれる?」
「やあ、久しぶりだな。少年探偵。てかお前までミニホー言うな!」
「ごめんごめん。あの、野々川沿いの遊休地をタヌキのために活用するって、どうもアイデアが浮かばないんですけど、アドバイスもらえますか?」
「あまり自分で考えずに人に頼ってばかりいると、どこぞの助手みたいにろくな大人になれないぞ。まあ、ヒントだけは出してあげよう。こういう時の基本は何だ?」
「そうですね。もう一度現場を徹底的に調べること、かな?」
「ご名答。」
「じゃあ、その遊休地に行って・・・」
「それも大事だが、もう一カ所、着目して欲しい場所がある。」
「え、どこだろう?」
「サービスヒント。マミちゃんと最初に会ったのはどこだ?」
「えーっと、転校生としてやってき来た学校の教室?」
 ミニホームズは、人差し指を立てて左右に振りながら答える。
「ちっちっちっ、甘いな。マミちゃんとの出会いはそこが最初じゃないはずだ。」
「うーん・・・そうか、ぼくらは図書室で出会ったんだ。」
「その通り。では、マミちゃんは危険を犯してまで何で図書室に入ってきたんだろうか?」
「確かにそうだよね・・・そう言えば、本が散らばっていたような。」
「おお、いい線いってるな。」
「そうか、そこを調べれば、解決の糸口が見つかると!」
「そうだ。さあ、再び図書室に行ってみようではないか。」

 放課後、図書室に寄る。ドアを開けてすぐ、正面のコーナーが問題の場所だ。展示用の本棚の上部に「特設企画コーナー」と書かれたボードが貼り付けられていて、よく見るとその下に、
“生き物との共生”
 と黒マジックで書かれている。棚の上には様々な規格・サイズの書籍が、表紙を見せて置かれてある。マミちゃんと出会った時は、床の上に散らばっていて、ぼくが棚に戻した本だ。
 都市生活と野生動物の未来に関する本、生物多様性を人と動物・環境を倫理の視点から考察した専門的な書籍から、マンガでわかりやすくSDGsや生物多様性を解説したものまで。
 もしかしてマミちゃんは、人とタヌキがどうやったら仲良く暮らせるか、いろんな分野から情報を探していたのではないだろうか。その知識も仲間のタヌキたちに、そして子ダヌキたちに教えていた、タヌキの側から変えようとしていた・・・。
 棚には、バインダーで閉じられた資料もあった。「環境共生都市、たせがや 自然の力と人の暮らしでつくる豊かな未来」
 資料を手にとり、ペラペラとめくる。東京都内にありながら、川がいくつも流れ、みどりが溢れる自然環境豊かな街。区内には農業の専門大学もある。ここだからこそ、できることがあるかも知れない。
 棚にあった本の中から何冊かを借り、家でじっくり読むことにした。
 ありがとう、ミニホー!
 (だからミニホー言うな! という声が脳内に響いた)



「もしもし、満月亭さんですか?」
 ぼくもマミちゃんもスマホを持ってないし、マミちゃん家の電話番号も知らないので、お店の番号をネットで調べて電話をかけた。
「まいど! テイクアウトのご注文?」
 叔母さんだ。
「あの、お忙しいところすみません。町村です。マミちゃんはいますでしょうか?」
「お、少年か! 真美瑠をご注文だね。ちょっと待ってて。」
 お、叔母さん! なんてことを。

「もしもし?」
 動揺しながら受話器に耳をあてていると、マミちゃんが電話に出た。
「元気?」
「うん。元気。心配かけちゃってごめんね。明日からは学校に行くよ。」
「よかった。」
 マミちゃんの声は思ったより元気そうだ。
 まず、聞いておかなければならない。
「あのさ、いきなりだけど。マミちゃんは移住したいの? あ、お父さんもお母さんも向こうにいるし・・・」
 しばらく間があく。受話器の向こうから、叔母さんの声と、ガチャガチャとお店を準備している音が聞こえてくる。
「ううん。できればここにいたい。ここで生まれたし、このお店も好きだし。学校も友だちも、好きだし。お父さんとお母さんだってじきに帰ってこれると思う。それに・・・」
 何やら言いにくそうにしているので、ぼくは用件を切り出した。
「そうなんだね。ならマミちゃんに手伝って欲しいことがあるんだ。タヌキたちのために。いや、ぼくのために。」
 再び間が空いて、マミちゃんが答える。
「うん。お手伝いできることがあれば何でも言って。」
「ありがとう。じゃあ、こういうことって、できるのかな?」
 リクエストをざっと説明する。しばらくマミちゃんは無言で考えているようだったが、受話器の向こうで、きっぱりと言った。
「多分大丈夫。やってみたことあるし。」
 ぼくらは明日の放課後、緑地公園で待ち合わせる約束をして電話を切った。
 突貫でアイデアコンテストの概要をまとめ、ぼくは学校に逆戻りし、教頭先生に計画への意見を聞いたり、相談をした。

 締め切りの一日前。ぼくは応募作品を仕上げ、プレゼン資料にSDカードを添え、田瀬谷区役所の募集窓口に提出した。
 約二週間後、予選通過の通知と本選の案内が郵送で送られてきた。


 コンコン。
「あいよ。」
「姉貴、ちょっといいかな。」
 姉の部屋のドアを開け、中を覗く。
「なに?」
 何のタイトルか知らないが、姉はオンラインゲームの最中のようでパソコンに向かったまま、めんどくさそうに聞く。
「あ、こないだ借りてたビデオカメラのセット、返すの忘れてた。ありがとう。どこに置けばいい?」
「そこの棚に置いといて・・・あと、お礼を言うことはそんだけじゃないでしょ。」
「あっハイ。素晴らしいビデオ編集でした。おかげでいいものができました。」
「そうでしょそうでしょ! 編集ソフト、ちょうどバージョンアップしたばっかりだったからね、ちょうどよかったよ。わたしのスキルと才能の結集だからね。高くつくよ。」
「お礼は、きっと必ず。・・・ところで」
「なによ、用が済んだんならさっさと出てってよ。」
「いや、あの、聞きたいことがあって・・・中学生の女の子って、プレゼントに何もらったら喜ぶのかな。」

 ここで姉は初めてゲームミングチェアをぐるりと回し、ぼくの顔を見た。
「なによあんた。彼女でもできたの?」
「いや、そういんじゃないけど。感謝とか、いろんな気持ち、伝えておきたくて。」
「おーおー、いっちょ前に色気づきやがって。で、相手はどこの誰よ? ・・・あ、そうか。さては、ビデオに映ってた子だな。ってか、あの子、何かすんごい特技持ってるね。」
 予想以上に姉が食いついてきた。ゲームのパーティー仲間は放っておいていいのだろうか? 
「そうだよ。満月亭ってヤキトリのお店の建物に住んでる同級生。」
「あー、それでこないだヤキトリのお土産あったのか? ありゃうまかった、ゴチ。」

「・・・で、プレゼントの件だけど。」
「そうねえ、最近ヘッドホン、調子悪くてさ。ちょうど良かった、欲しいゲーミングヘッドセット、あるのよねえ。」
「いや、そういう話じゃなくで。中学生の普通の女の子が喜ぶもの。」
「それってわたしに聞くの間違いじゃない? 本人か、他の同級生の女の子に聞けばいいじゃん。」

 姉の言うのも、もっともだ。
「ま、一つだけアドバイスするとすれば、あんたが、こうしてあげたいって気持ちがこもるものを選ぶこと。」
 予想外に、まともなアドバイスをいただいた。
「わかった。そうする。ありがとう。」
「ちょっ、待って。満月亭の子の話、まだ終わってないでしょ?」

 僕は早々に姉の部屋から退散した。そして自分の部屋に戻り、魔の手の追求から逃れるためにドアの鍵をかけた。
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