第1話 クローバー
文字数 924文字
私の持ち主である美咲 さんは、とても綺麗なの。
派手さは無いけど清潔感があって、品の良い薄化粧と、艶のある黒髪は軽やかなショートボブ。とても似合っている。
11月に結婚式を予定していて、お互いの家族だけで会食をするのだと話していた。
頬が桜色に華やいでいる。美咲さんをハタチの頃から見ているけど、今が最高に瑞々しい。
週末には妹の美雪 さんも手伝って、新居への荷造りの準備。
もうなんの役にも立たないボロボロの私だ。今度こそ捨てられると覚悟を決めていた。
美咲さんが引き出しの中の私を手に取った。
さようなら美咲さん、今まで大切にしてくれてありがとう。
あれ? 私は可愛い菓子箱に入れられた。
大切な手紙と絵はがき、小学生のときに作った押し花の栞 、友達手作りのビーズのキーホルダー、婚約者と初めて行った映画のチケット、そんな宝物達と一緒に。
「お姉ちゃん、それ、まだとっておいたの?」
「うん、捨てられなくて」
「お姉ちゃんごひいきのお店だったもんね」
「うん」
「店長さんかなり年配だったよね。おしゃれな美容室はもっと他にあるのに」
「でもね、技術が確かで気持ちがとっても若々しい店長さんだったの。とにかくね、店長さんと話していると前向きになれたのよ」
そうだった。
私を作ってくれた店長さんは、いつも最後に美咲さんと一緒に鏡の中を覗きこみ、
「ほら見て素敵、輝く未来がやって来るわよ」
そう言って笑顔で最後の仕上げをしたのだった。
「お姉ちゃんがロングからバッサリ短くしたとき、びっくりしたなぁ」
「とにかくいろんなことリセットしたくてイメチェンお願いしたけど、切った瞬間は後悔した」
美咲さんは思い出し笑いをした。
「みんなが驚く中、似合うよって声かけてくれたのが、未来の旦那様になるとは」
美雪さんがからかっている。
店長さんは肩と腰を悪くしてお店を閉めたけど、最後までずっと笑顔だった。
「店長さん、今どうしているのかな」
美咲さんはそう言うと私をそっと開いた。
私は店長さんが作ったスタンプカード。
来店のたびに押された四つ葉のクローバーのハンコが、花畑のように広がっている。
私を見つめる美咲さん。
こんな古ぼけた私を大切にしてくれる、美咲さんの未来はきっと輝いている。
派手さは無いけど清潔感があって、品の良い薄化粧と、艶のある黒髪は軽やかなショートボブ。とても似合っている。
11月に結婚式を予定していて、お互いの家族だけで会食をするのだと話していた。
頬が桜色に華やいでいる。美咲さんをハタチの頃から見ているけど、今が最高に瑞々しい。
週末には妹の
もうなんの役にも立たないボロボロの私だ。今度こそ捨てられると覚悟を決めていた。
美咲さんが引き出しの中の私を手に取った。
さようなら美咲さん、今まで大切にしてくれてありがとう。
あれ? 私は可愛い菓子箱に入れられた。
大切な手紙と絵はがき、小学生のときに作った押し花の
「お姉ちゃん、それ、まだとっておいたの?」
「うん、捨てられなくて」
「お姉ちゃんごひいきのお店だったもんね」
「うん」
「店長さんかなり年配だったよね。おしゃれな美容室はもっと他にあるのに」
「でもね、技術が確かで気持ちがとっても若々しい店長さんだったの。とにかくね、店長さんと話していると前向きになれたのよ」
そうだった。
私を作ってくれた店長さんは、いつも最後に美咲さんと一緒に鏡の中を覗きこみ、
「ほら見て素敵、輝く未来がやって来るわよ」
そう言って笑顔で最後の仕上げをしたのだった。
「お姉ちゃんがロングからバッサリ短くしたとき、びっくりしたなぁ」
「とにかくいろんなことリセットしたくてイメチェンお願いしたけど、切った瞬間は後悔した」
美咲さんは思い出し笑いをした。
「みんなが驚く中、似合うよって声かけてくれたのが、未来の旦那様になるとは」
美雪さんがからかっている。
店長さんは肩と腰を悪くしてお店を閉めたけど、最後までずっと笑顔だった。
「店長さん、今どうしているのかな」
美咲さんはそう言うと私をそっと開いた。
私は店長さんが作ったスタンプカード。
来店のたびに押された四つ葉のクローバーのハンコが、花畑のように広がっている。
私を見つめる美咲さん。
こんな古ぼけた私を大切にしてくれる、美咲さんの未来はきっと輝いている。