第1話

文字数 508文字

愛知県豊田市、伊勢神トンネル。
幽霊が出る、と言われている。
飯田街道のバイパス化の中でも、かなり古く、幅の狭いトンネルで、大型車同士のすれ違いは出来ない。
だから、事故も起こりやすいのだろうし、それがそんな噂のもとなのかもしれない。
いや、本当の幽霊トンネルは、旧街道にある伊世賀美隧道の方だ。
こちらはより狭く、ちょうど僕が生まれたのと入れ替わりに、それまで有料道路であった現在の伊勢神トンネルが無料開放されるに伴い取って替わられる形でその役目を終え、現在訪れる人はほとんど居ない。
つまり、僕とほぼ同じ時間を、僕と同じ様に、ひっそりとただ存在しているだけ。
そして、今、また新しいトンネルの掘削工事が行われており、それが開通すると、この全長308mの未舗装路の狭いトンネルは、人々の記憶からも、消えてしまうかもしれない。
淘汰に次ぐ淘汰。
有形文化財として、また、心霊スポットとしてだけの存在価値。
それも、今のトンネルが使われなくなったら、取って替わられてしまうかもしれない。
ただの有形文化財なら、誰も行かなくなって、忘れられてしまう。
まるで、自分みたいだ、と云う親近感。
それだけじゃない。
僕にはここに足を運ぶ理由が、別にある。
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