第4話

文字数 421文字

 歌い終えた。気分が高揚していた。私はギターを地面に叩き付けた。ギターに感謝を捧げるためにだ。これは祈りだ。一度目は鈍い音と共に弦が切れた。若者が何やら叫び声を上げた。気にせずに再び叩きつけた。ギターは二つに折れて木屑が散った。かろうじて弦だけで繋がっていたギターは三度目に振り下ろしたときに完全に分離した。そのまま勢い良く若者の足元まで転がっていった。

「おうちにお帰り。ファッキュー」

 私はそういって中指を立てた。ギターの片方を若者に放って投げた。
私は多くの人に囲まれていた。その中に警察官が三人いて、間もなく私はパトカーに乗せられ警察署に連行されることになった。私はこのときには事の重大さを自覚していなかった。反省と謝罪を繰り返すようになるのは、数日後のことだ。なぜならこのとき私の心を支配し、高揚させていたものはただ一つの問いだったからだ。

 この出来事について、妻は何と言うのだろう? それだけだったのだから。

            了
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