第3話

文字数 382文字

 三十分の遅刻だったが女は待ってくれていた。昨夜、馴染みのバーで知り合ったばかりだが、ドレスアップしてますますいい女に磨きがかかっていた。いい女は待てる女、ただ待つだけは便利な女。ジョーの好きな言葉だ。ジョーは女をエスコートしながら、側道に停めた愛車に案内した。
「え? これなの?」
 車を見るなり、女の声のトーンが下がった。
「そう俺の愛車(あいぼう)。さあ乗って」
「ふざけんじゃないわよ! ミニバンじゃない! その辺のポルシェなんてあっという間にルームミラーの米粒になるって、昨日言ってたじゃない?」
「そうさ、嘘じゃない。最強のチューンでフェラーリよりも速いさ」
 女はジョーをキッと睨むや左の頬を張り飛ばし、踵を返すと夜の(とばり)に消えていった。
 遠ざかる女の(ヒップ)を見ながらジョーは「逃した魚は大きかったか、ペンギンだけに……」と苦笑し、マールボロに火を灯すと、苦い紫煙を吐き出した。
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