第2話
文字数 1,108文字
彼は、わたしが高校生の頃の友人の、彼氏だった人だ。
わたしは友達を作るのが苦手だったから、その友人はわたしがほぼ唯一、心を許せる友人だった。もし彼女がいなかったら、わたしはもっと暗い人間になっていたと思う。いつもわたしに歩幅を合わせてくれて、わたしの側で笑ってくれて……今思うと、わたしなんかと一緒にいてくれたことの方が奇跡に思えて、なんだか申し訳ない限りだった。
彼女の性格だったら、わたしといない方が、友達も増えただろうに。
そんな彼女から彼のことを初めて聞いたのは、修学旅行の夜だった気がする。
中学の頃のクラスメイトで、人懐っこい甘えん坊で、だけどそんな彼を見ていると心が癒やされるんだって、そんな自慢話を聞かされたんだ。性格の悪いわたしは、最初こそただの妬みしか沸かなかったけど、彼女の楽しそうな話を聞いているうちに、徐々にそんな恋愛話に憧れを抱いていったんだ。
その時に見せてくれた二人の笑顔の写真が、どうしても脳裏に焼き付いてしまったから。
もっともそれはわたしにとってただの憧れであって、何一つ現実味のないお話。
楽しそうに彼氏の話をする彼女。それに対して、いつも下を向いて歩きながら聞くわたし。
わたしと彼女の間には明確な距離が存在して、その距離は決して縮まることはなかった。
だからわたしは、彼女が楽しそうに話すその時間が、どうしても苦手だったんだ。
嫌いじゃないけど……苦手なものはやはり存在していたんだって。
「はるみちゃんはいつも真面目すぎるんだよ」
彼女はそんな風に言って、いつもわたしを励ましてくれた。
「それって、どういう意味?」
わたしは内心少しだけ怒って、彼女にその意味を確認していたっけ。
「何でも自分で背負い込んでさ、そんなに無理しなくていいところで無理してる」
「無理なんてしてないもん。だってわたしはみんなに迷惑かけてばかりいるし……」
「ほら。やっぱり無理してる」
「そんなこと、ないもん」
一体わたしはどんな顔を彼女に返していたんだろう。今思うとそれはなんだか馬鹿馬鹿しく思えてしまう。もちろん彼女に対してではなく、わたし自身に対してだ。
だけど……今もし彼女がわたしの前でそう言ったとしても――
今でもきっとわたしは…………
彼女は大学に入ったら、彼氏の部屋のすぐ近くに住むんだって言っていた。いきなり同棲は親が許してくれないだろうから、それでも少しでも距離を縮めて、一分でも長く、彼のすぐ近くに居られたらって。
未来を話す彼女はいつも輝いてて、わたしには到底手が届かないように思えたんだ。
――だから彼女もきっと、この辺りのどこかに住んでいたのだと思う。
去年のあの日まで。
わたしは友達を作るのが苦手だったから、その友人はわたしがほぼ唯一、心を許せる友人だった。もし彼女がいなかったら、わたしはもっと暗い人間になっていたと思う。いつもわたしに歩幅を合わせてくれて、わたしの側で笑ってくれて……今思うと、わたしなんかと一緒にいてくれたことの方が奇跡に思えて、なんだか申し訳ない限りだった。
彼女の性格だったら、わたしといない方が、友達も増えただろうに。
そんな彼女から彼のことを初めて聞いたのは、修学旅行の夜だった気がする。
中学の頃のクラスメイトで、人懐っこい甘えん坊で、だけどそんな彼を見ていると心が癒やされるんだって、そんな自慢話を聞かされたんだ。性格の悪いわたしは、最初こそただの妬みしか沸かなかったけど、彼女の楽しそうな話を聞いているうちに、徐々にそんな恋愛話に憧れを抱いていったんだ。
その時に見せてくれた二人の笑顔の写真が、どうしても脳裏に焼き付いてしまったから。
もっともそれはわたしにとってただの憧れであって、何一つ現実味のないお話。
楽しそうに彼氏の話をする彼女。それに対して、いつも下を向いて歩きながら聞くわたし。
わたしと彼女の間には明確な距離が存在して、その距離は決して縮まることはなかった。
だからわたしは、彼女が楽しそうに話すその時間が、どうしても苦手だったんだ。
嫌いじゃないけど……苦手なものはやはり存在していたんだって。
「はるみちゃんはいつも真面目すぎるんだよ」
彼女はそんな風に言って、いつもわたしを励ましてくれた。
「それって、どういう意味?」
わたしは内心少しだけ怒って、彼女にその意味を確認していたっけ。
「何でも自分で背負い込んでさ、そんなに無理しなくていいところで無理してる」
「無理なんてしてないもん。だってわたしはみんなに迷惑かけてばかりいるし……」
「ほら。やっぱり無理してる」
「そんなこと、ないもん」
一体わたしはどんな顔を彼女に返していたんだろう。今思うとそれはなんだか馬鹿馬鹿しく思えてしまう。もちろん彼女に対してではなく、わたし自身に対してだ。
だけど……今もし彼女がわたしの前でそう言ったとしても――
今でもきっとわたしは…………
彼女は大学に入ったら、彼氏の部屋のすぐ近くに住むんだって言っていた。いきなり同棲は親が許してくれないだろうから、それでも少しでも距離を縮めて、一分でも長く、彼のすぐ近くに居られたらって。
未来を話す彼女はいつも輝いてて、わたしには到底手が届かないように思えたんだ。
――だから彼女もきっと、この辺りのどこかに住んでいたのだと思う。
去年のあの日まで。