【episode8 - 花曇りの想い】

文字数 498文字

想い人とそっくりな骨格を持った彼と肌を重ねたことで、私の中に確信が生まれた。

それは『人生で最高の交わりを経験していたのだ』という思いだった。


想い人との時間は、優しく甘やかで淫らで心地良い。

全てのものが満たされていた。


次はいつ会えるのかもわからない想い人と今後も繋がりを持ち続けることに迷ったこともあった。

だが、他の誰とも代わりのきかぬ存在であることに気づいてしまったのである。



我が身は海を渡って会いにくることが無いくせに、姿と年齢を変えて私を抱きに来た。



彼はズルい人。



想い人への確信と会えないもどかしさで、靄掛(もやが)かる心が、まるで花曇(はなぐも)りのようだ。



身支度を終え外界へのドアを開けると水音がする。


夜の(とばり)が下り始めた空を見上げても、先ほどまでの夕立が降っている様子はない。



辺りを見渡すと、どうやら敷地内にある噴水から溢れ出る水が雨音に聞こえていたようだ。



「夕立かと思った。」



私たちは、微笑み合うと水音に耳を傾けながら車に乗り込んだ。




想い人以外とは、もう肌を重ねることが出来ないかもしれない。彼との時間は、それほどまでに私を潤すものだった。


車窓に移り行く景色を眺めながら私はボンヤリとそんなことを考えていた。









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