義務と権利とモブ of モブ

文字数 1,335文字



 コンビニで買った弁当を会社の冷蔵庫に入れる。これもまた、お局様が煩い時があった。だが、マナーの無い入れ方をしたのが、実は年も階級も上の人だった時から、お局様は何も言わなくなった。いや、誤爆を恐れて言えなくなったと言う方が正しいかも知れない。お局様とは、そう言うタイプの人間なのだ。
 そもそも、掃除やごみ捨ては新人の仕事で、お局様が冷蔵庫を掃除している訳では無いのだ。だが、新人が麦茶の残り具合を確認した後、お局様がネチネチと嫌みを言うネタを探す為だけに無駄に冷蔵庫を開き、その結果の誤爆。新人がドアを閉じるところからは見たが、何をしたかまでは見ていなかった。そして、グチグチ言い出したところで、タイミング良く上の人が登場。お局様的に「マナーの無い使い方」をしていたのは、お局様よりも年上の人と発覚。何故か新人に「紛らわしいことをするな」とキレるお局様。フォローまではしないが、冷蔵庫に入れていたものはしれっと回収する上の人。

 電子レンジや電気ポットに用があった社員がそこに出くわしていたけど、その誰もかれもがお局様に逆らえはしなかったし、新人をフォローしなかった。そこら辺、ブラック感は否めない会社ではある。会社の細かい部分を知らない新人を生贄に、その他大勢がお局様からの攻撃を受けない様にしている。勿論、誰一人としてそれを口には出さない。ただ、その態度を隠そうともしていない。
 だが、分かるだろう新人よ。それこそ、小学校の頃から「虐げられている人間を、誰も助けてはくれない現象」を。いじめられっ子は、担任すら助けない。複数から悪口を言われている場面に出くわしても、担任は助けない。複数から物を隠され、私物を汚され壊されても、担任は助けない。むしろ、いじめられっ子に「もっと◯◯しなさい」と言うのが担任だ。学校でそれを学ばないで来れたなら、君はむしろ幸せな人間だ。何故なら、大人になるまで、いじめの被害には遭わなかったのだから。
 もし、いじめられっ子であったなら、「声を上げなければ、いじめは無かったことになる」のを知っている。勿論、声を上げたからといって、状況が好転する訳ではない。むしろ、いじめが悪化することもある。ただ、「声を上げた事実」だけは残る。それでも駄目なら、その環境はクソと言うことだ。小学校受験や中学受験をしなければ、住んでいる地域で通う学校は決まる。だが、職場は変えることも出来る。ただ、その後の保障はない。子供には「教育を受ける権利」があるが、だからと言って「義務教育を受ける義務」はない。成人には「勤労の義務」はあるが、「逃げる権利」もある。ただ、その権利を行使するにも、気合いや勇気が必要だ。
 その気合いや勇気も無く、かと言って会社の悪い部分を修正する優しさもない。そうやって、会社は回るし、下手に何処かが崩れて回らなくなっても怖い。なので、回す重圧なんぞ掛けられず、ただ歯車の一部としてやるべきことだけをやる。ベンチャー企業ならいざ知らず、古い体制が残っている会社で、リスクをおかすメリットも見つけられない。
 自分はヒーローではないし、かと言って悪役にもなれない。モブのなかのモブ。モブオブモブだ。それでも、じわじわと心はすり減ってしまう。
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